〜源仁物語4巻〜
「さてと・・・今日はどうしようかな。」
親友の頭中将役のブレーダーDJを見送って
ぼんやり考える。
「久々に貝独楽の試合がしたいな・・・。」
玄武の君との試合も楽しかった。
だがやはり、今度は体調が良いときにやりたい。
やはり朱雀の君のところへ行こうか。
源仁の頭の中に、愛しい朱雀の君が蘇る。
ドランザーと思う存分戦った後、
あの紅の瞳を見つめ、薄青の髪に指を通したい。
・・・突然訪れても今度こそ入れてもらえないかもしれないな。
「おーぃ、だれか! 筆と紙を・・・。」
使用人に墨をすらせて何を書こうかとしばらく考えた。
「首(身体)を洗って待ってろよv」じゃ、殺されそうだから・・・
紙を一枚破り捨てて
サラサラと筆を滑らせる。
折りたたんで目に付いた花たちばなの枝に結びつけて
朱雀邸へと、言付けた。
バタバタドタドタ
急に屋敷の中が騒がしくなった。12/17
「兄ちゃん!!!」
バタバタという音が徐々に大きくなってきて
源仁が立っている中庭まで走り出たのは
源仁の弟、青龍の君だった。
「お兄様、だろ。タカオ・・・じゃなくて青龍の君。」
この衣装でよくこんなに走れるものだ、と
久々に会う青龍の君の頭をポンポンと撫でながら源仁が間違いを訂正する。
「・・・変な感じがするぜ。」
照れくさそうに鼻の下をかきながら
お兄様と小さく呟く青龍の君に源仁の頬も緩む。
「今日はどうしたんだい?青龍の君。」
「だって・・兄・・・お兄様って
全然、俺のところに来てくれないからさ。」
源仁の直衣を軽くつかみ俯く青龍の君。
ちょっと待ってくれ。
なんで俺の弟はこんなにも可愛いのだろう!?
思わず声に出てしまっていたようで
驚き、源仁を見上げる青龍の君を、その言葉を立証するように抱きしめた。
「に・・兄ちゃん!?」
慌てる青龍の君に
「よし、今日は兄ちゃんと思う存分遊ぼうな!」
明るく声をかけると
やった!!!と青龍の君が素直に喜ぶ。
兄弟だと昼間からいちゃついてても
フシダラに見られないから便利だよなぁ〜♪
そんな不謹慎なことを(今更だが)考えながら
突然の愛弟の訪問に源仁も喜んだ。12/18
青龍の君の十二単を動きやすい単衣に着替えさせて
小さいころ、よく2人で貝独楽の特訓をして山の中の広場へと向かった。
"秘密のかくれが"と称した、そう、2人の思い出がいっぱい詰まった場所。
様々な形状のスタジアムや木に吊るされた2つのドラ。
昔と変わらず2人を迎えてくれるその場所が
懐かしく、暖かく感じた。
「青龍の君・・・小さいころはこのドラを2つ同時に鳴らしたい!って
頑張っていたよな。」
「なんだよ、俺だって今は鳴らせるようになったんだぜ。」
ゴー・シュートと掛け声とともに
青龍の君がドラグーンを放つ。
「いっけぇーーーーーーーーーー!!!」
威勢良くドラにぶつかったドラグーンは、
2つのドラを弾き、ドドンと音を響かせた。
「まだまだ甘い!!!」
その直後に源仁が叫び、シュートすると
同じく2つのドラを弾く。
青龍の君の何倍もの、その辺り中に響き渡る大きな音を立てて。
「すっげぇ・・・さすが兄ちゃんだ!!!」
「当たり前だろ。でもお前もすごく成長したな!」
いつの間にこんなに大きくなってしまったんだろう?
青龍の君の成長を喜ぶ気持ちと少しの寂しさで
源仁はそっと後ろからその背中を抱き寄せた。
「兄ちゃん・・?」
そのまま上を向かせて
そっとその唇にキスを落とす。
「俺は・・・いつまでもお前のいい兄でいたいよ。
たとえ何が起こってもな。」
そのまま青龍の君の胸元のあわせに手をすべりこませた。
まだ昼間だが・・・この場所は俺たち兄弟しか知らない。
まさぐる手の動きに、顔を真っ赤にしながらも
背後に立つ源仁に身体をあずける青龍の君。
源仁の中にただの兄弟の愛情とは少し違う甘い感情が巻き起こる。
「ひ・・ひとっし兄ちゃ・・・・」
快感におぼれる自分を恐れるように。
そしてこれから達する先が不安なのか
必死で源仁に抱きつく青龍の君を
安心させるように強く抱きしめて、背中をさすった。
木にもたれて座る自分の上に
青龍の君を座らせて。
不安にならないように、お互い向かい合うカタチ。
己の中に侵入しようとする兄を
見上げる潤んだ瞳が
身体に渦巻く快感と不安感、そして源仁への親愛に揺れている。
大丈夫だ、と微笑みかけると
源仁の腕をギュッとつかんで目を閉じた。
まだ明るいのに。
誰がいるとも分からない森の中で。
実の弟を愛し慈しんでいる。
その肉体におぼれている。
そんな背徳感がよりいっそう源仁を快感へと落としていった。12/20
今日は泊まっていくがいい。
そう提案すると、少し疲れた表情の青龍の君が
それでも顔を輝かせて頷いた。
屋敷にもどって、2人で風呂に入って背中の流し合いをして、
夕食を食べた。
夜が更けるまで、貝独楽の話や自分が旅でいなかったころの話をして
昔の思い出話をした。
昼間にあんなことをしておいて何なのだが
いちおう姫君なのだから、俺とは別室で寝たほうがいい
屋敷には人がいるしな。
客用の部屋に連れていって
青龍の君が眠るまでそばで頭を撫でていた。
静かな寝息が聞こえてきたのを確認して
そっと自室に戻った。
朱雀の君に文をだしたが・・・行けなかったな。
怒られるだろうか?
しょせん、お前の葵の上(本妻)は木ノ宮か・・・
そんなことを言われるかもしれない。
寝返りをうつ源仁の目に
目をこすり、源仁の部屋の入り口に立っている青龍の君の姿が映った。
「起きちゃったのか。・・・来るか?」
寝具の端をあげてやると
えへへ、と嬉しそうに笑いながら
青龍の君が布団に潜り込んできた。
「兄ちゃんと寝るの・・・久し・・ぶ・・」
青龍の君の呟きが、くっついて横になる源仁に響いた。
そのままくっつきあって
弟の暖かさに安堵しながら、意識を手放した。12/24
今日は玄武の君や白虎の君たちと貝独楽の練習をするんだ!
意気込む青龍の君を笑顔で送り出した。
そんな源仁のもとに届けられた一通の文。
「お待ちしております」
流麗な字体と、その文に添えられた"紅花"が一輪。
紅花の異称はたしか"末摘花"。
源氏物語に"末摘花"という姫君がいたはず。
源仁がう〜と唸りながら考え込む。
たしか・・・あまり美人で・・・そう美人でなかったはずだ。
鼻が赤い彼女を見て、「紅花のようだ」と思った源氏が"末摘花"と呼んだんだっけ?
あまり確かではない記憶だが、
源氏物語の麗しい女人たちのなかであまり美しくなかったのは事実。
でも"末摘花"は貧しかったが誠実な人だったはず。
それにしても、自分をその"末摘花"になぞらえるなんて
なんと奥ゆかしいではないか。
それにいくらあまり美人ではないと言ったって
とにかく源氏物語に登場する姫君の名が付いているんだ。
まともな姫君だと信じることができるのでは?
こっちは猛牛の君すら相手にしたんだ!
これ以上のものは出て来やすまい!!!
源仁は覚悟を決め、牛車に乗り込んだ。
ガラガラガラガラ
文に書いてあった住所を頼りに牛車は走る。
緊張と期待と甘い予感が源仁の胸を埋めた。
たどり着いた先は、豪華すぎない感じのよい寝殿造の屋敷だった。
質素というよりもどちらかというと風流といったほうが正しいだろう。
「光殿がいらっしゃいました。」
門が開き、そこの使用人に中へと迎えられる。
通された一つの部屋。
あまり広くない部屋の中央に几帳の向こう側に
人の気配がする。
この方が末摘花の君(勝手にそう呼ぶことにした)か
「光源仁でございます。
あなたのために、参上しました。」
恭しく声をかけるが、その人影は何も言わない。
「末摘花の君?
あなたのお手紙に添えてあった紅花が私の心を騒がせるのでございます。
声をお聞かせください。」
それでも何の動きもない。
ただ几帳が微かに揺れる。
・・・きっとすごく恥ずかしがりやさんなんだ。
若さ溢れる元気な白虎や青龍もいいが、しっとりした和服美人も最高だ!
隠し切れない笑みを浮べ、几帳ににじり寄る。
「・・・あなたの瞳を見つめながらお話がしたい。
ご無礼をお許しください。」
・・・それにしても、こんなにおとなしく奥ゆかしいブレーダーが
はたして居ただろうか?
そっと几帳をめくり上げ、すばやくその中に入り込んだ。
「(ギャァーーーーーーーーー)!!!!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げて、
思わず腰を抜かした源仁の視線の先には
木ノ宮祖父の姿があった。
十二単を羽織った一人のお年寄り。
「おぉ、源仁。待っておったぞ。」
笑顔で源仁に近寄ってくる。
「じ・・じぃちゃん・・・・、いくら・・俺でも・・・・」
弟や弟の友人を喰ってしまうことができても
自分の祖父とは絶対、無理だ・・と
震えながら涙ながらになんとか声を絞りだす。
すでにあまりの驚きで、逃げることはおろか
立つことすらできない。
「何を言っとるんじゃ、こいつは。」
ドンと源仁の前に置かれたのは日本酒の一升瓶。
「へっ?」
「たまにはわしの酒の相手ぐらいせぇ。
旅の話も聞かせてもらってないぞ。」
杯2つと酒のツマミを持って、どんとアグラをかく。
「・・・・・・・(た・・助かった;;)」
久々に孫に会えてご機嫌な祖父・・・末摘花の君の杯をうける。
その晩は夜通し、2人で飲み明かしたそうな。12/25