〜源仁物語3巻





さくさくさく

落ち葉を踏みしめる音がする。
突き抜けるような青空が目に優しい。
その寒空に揺れる艶やかな黒髪。

パキッ

小枝を踏み砕いた音で
彼がこちらを振り向いた。



「・・・源仁!?」


悪夢のような一夜でつかれきった源仁にさわやかな風を注ぎ込む。


「白虎の君・・・。
 和服・・・似合っているな。」


「あ・・ぁ、重たいけど、綺麗な布だ。
 日本の民族衣装もなかなか面白いな。」


十二単ではなく動きやすい袴姿。
袴の鮮やかな朱色は、神社などにいる巫女を彷彿させる。

姫役ということで、ほどいてある腰までの長い黒髪が
その朱色によく映えていた。

秋の味覚を採っていたのであろうか、
きのこや栗などが入った篭をかかえて。



「バトル・・・するか?」

白虎の君の問いに

「・・・いや・・。」

と小さく呟いて
その黒にゆっくりと手を伸ばした。



手が届くか届かないか・・・


その瞬間、目の前が真っ暗になった。
倒れこむ源仁。




「っおい! 源仁!?」


白虎の君が篭を置いて、慌てて駆け寄る姿が
見えたような気がした。






「源仁?・・・源仁?」

何度か頬を叩く。
聞こえてくるのは、小さな寝息だけ。


「・・・。眠かったのか?」



「白虎の君〜!!!」 「姫〜!?」


遠くから聞こえるおつきの者の、
自分を探す声に返事をして


「よいしょっ・・と」

源仁を抱え起こした。

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「う・・ん・・・。」


嗅ぎなれない御香の香りが鼻腔をくすぐった。

重いまぶた。

衣擦れの音がして誰かがそばに寄ってくるのが分かる。


俺はどうしたんだっけ?
玄武の君とバトルをして・・・
あぁ、マヨネーズ(らしきもの)が・・・
牛とマヨネーズが俺を襲っ・・・


額に乗せられた手で
はじかれるように目をあけた。


「大丈夫か?」


もう夜なのだろうか

薄暗の中に金色の瞳がゆれた。


「レイ・・・。俺は・・・?」


「山の中で倒れたんだ。
 水原邸に行ってたんだって?
 きっとあの飯にやられたんだろう。」


そう苦笑交じりに言うと
そっと部屋を後にして
暖かい粥をいれた土鍋を持って帰ってくる。


「これでも食って、寝てろ。
 お前の家来には明日の朝、迎えに来るように言ってある。」


少し痛む頭を何度か振って
記憶をたどる。

そうか、猛牛の君と(うっ;;)別れたあと
迎えの者を放っておいて、
フラフラと歩き着いた山の中で、白虎の君と出会ったのか。


白虎の君が採っていたであろうキノコが入った熱い粥をすすると、
何ともいえない安心感が胸の奥に広がった。


「美味いな。・・・で、胃に優しい。」


「玄武の君のあれも・・・民族の違いだろうが。
 なかなか手厳しいからな。」


過去に食したことを思い出したのか、困ったように笑う。
山の中で、出会ったときは袴姿だったが、
自邸に帰ってきたので
控えめな色の十二単に身をつつんでいる白虎の君。


日本人とそう変わらない同じアジア系の人種。
だが、その長い髪に、瞳の色に
源仁は見惚れた。


後はゆっくり寝て、体調を整えろ

そう言い残し、空になった土鍋をもって立ち上がろうとする白虎の君の
長い髪の一房を思わずつかんだ。


「・・・源仁!?」


「行くな・・・白虎の君。
 そばに、いてくれ・・・」


そのまま自分が寝ていた寝具へと、その身体を引き倒した。
鍛えてはあるが、やはり源仁と比べると
歳相応に小柄の身体が
ぽすんっと自分の腕におさまる。


その抱き加減に納得したように
うんうんと頷き、そっと口付ける。

驚き、逃げる舌を追いかけ
白虎族特有の尖った犬歯を楽しんだ。


「源・・・ジ・・・」


そのまま、額に、まぶたに、ほほに、首筋に、うねる髪に口付けた。


「そばにいてくれ。
 牛が・・・追いかけてくるんだ。」


「牛・・・?」


訝るように細められる白虎の君の瞳は
空に浮ぶ三日月に似ていて


・・・そう、その月の光に魅せられたんだ。



バネのような動きを生み出す
ほどよくついた、発展途上の筋肉を
指でそっとなぞると
たまらず白虎の君の身体が震えた。


「目を閉じて・・・快感だけを追えばいい。」

白虎の君を煽りつつ、
源仁も薄紅に色づく肌に溺れた。

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まぶたに浮んだ涙を舐めとった。

象牙色の肌に散った花びらを手で一つずつ確認するようになぞっていく。
その感触で、白虎の君も目を覚ましたようだ。


さらさらと音がこぼれでそうなほどの

まばゆい月の光が差し込む。


「・・・姫役だけど、まさかジンと
 契りを結ぶことになるとは思わなかったな。」


少しかすれた白虎の君の声が心地よく。



 ・・・この物語の趣旨を理解していなかったのか。。。
;苦笑



「でも・・・気持ちよかっただろ?」

「・・・;;」

言いよどみ、俯く白虎の君。



かわいいvv
他の姫君も、みんな麗しいといいなぁ


しみじみと噛みしめた。


もう一度、口付けを・・・
白虎の君を引き寄せて、あらためて彼の目の光に見とれる。


「そういえば・・・源氏物語の姫君の中に 
 "朧月夜"という名の姫君が、いたな。」


源氏は、その人と慌しい一夜を過ごすんだっけ?

まるでその通りではないか



「唄も贈らず、何の挨拶もしてなくて悪かったな。」


近づけた顔を、その唇に触れることなく離した。


「いや。その・・・そぼ・・ろ月夜の姫って
 竹から生まれて、月に帰ってくやつか?」


「・・・それはちょっと違うかな;;」


「でも白虎の君は、おぼろな光でもないし、月に帰ったりもしないだろ?」


・・・返事のかわりに軽く微笑んだ白虎の君に
源仁も微笑み返した。

12/3



身支度を整えて、迎えの牛車を待つ源仁が
名残惜しそうに白虎の君の部屋を見回した。

その視線は、開け放された庭へと向けられる。


「・・・それにしてもすごい庭だな;;」



「そうか?
 どうせ広い土地があるんならって思って、白虎族の村をイメージしたんだが」


昨日、山だと思って、さ迷っていたところは
実は白虎邸の庭の一部だったらしい。


自然の風情というより・・・サバイバル感が漂う、うっそうと茂った藪や木の蔓。
1歩踏み込んだら、猿や熊が出てきてもおかしくないように思える。


・・・熊。・・・く・・ま?


「なぁ、白虎の君・・・あの、バイフーズの紅一点の。。。
 桃色の髪の女の子は・・?」


「マオ?
 あいつは、この山の向こう側の別邸にいるぞ。
 色とりどりな着物で嬉しそうにしてたっけ・・・」


十二単を着た女の子ももちろん堪らなく可愛いのだろうなと思いつつ
源仁の背中に嫌な汗が流れ落ちた。


・・・念のため、念のため。



「あの、他のメン・・バー・・・は?」


「? そりゃ、俺が姫役なくらいだから他の奴らも姫や・・・」



白虎の君の言葉を最後まで聞くまでもなく
ガクッとうなだれる源仁。


だから配役を間違えているって言うんだ


リックが猛牛の君としているくらいだ
ガオゥの鈍熊の君や
セルゲイの鯨の君がいたっておかしくない。



よく気をつけよう


いくら俺がこの物語の主人公、
世を騒がせる光り輝く美青年だからといって
あまりの雑食は耐え難い;;


うなだれたまま決意を新たにする源仁の耳に
牛車の到着を告げる声が届いた。


「いろいろ話せてよかったよ。
 白虎の君、ありがとう。」


「あぁ、今度は俺ともベイバトルをしよう。」


すがすがしい朝。
こんな朝がいつも来ればいいのになぁ・・・


白虎の君に見送られて、牛車によいしょと乗り込んだ。



そういえば・・・白虎の君は最後まで"俺"だったなぁ;;


そんなことを考えながら
源仁は久々の我が家へと帰っていった。

12/5



ガラガラガラガラ

「!? ちょっと止めてくれ!」

源仁の声で牛車がゆっくりと止まった。

源仁の屋敷までもう10メートルというところ、
見慣れた牛車が同じ門を目指し進んできていた。



「おぉ!久しぶりじゃないか!!!
 ベイバトルがあるわけでもないのに、こんなところにいるなんて!」


ひらりと源仁が牛車から降りる。

それに呼応するように、もう一台の牛車からも
これまたひらりと青年が舞い降りた。


「頭中将役のブレーダーDJ!」

「我が親友の光源仁よ!!!
 たまにはバトルが無いところにだって行くのさ!」


二人がっしりと抱擁を交わし、そのまま源仁の屋敷に入っていく。





「お前の噂はよく流れてきているぞ。」


2人は屋敷の中庭に面した縁側で茶をすすっていた。


「ほぅ、どんな?」


先を促す源仁に頭中将役のブレーダーDJが口を開く。
マイクを持っていないのに、やけに大きな声で。

きっと職業病なのかもしれない・・源仁がぼんやり考えていると


「朱雀の君との逢引に成功した、だとか、
 水原邸で波乱の一夜を楽しんだとか・・・」


ブッ・・・・


飲みかけの茶が気管に入ったようで、源仁が激しくむせる。

涙目になりながら、何とか息を整えて。


「頭中将役のブレーダーDJ、そんな噂・・・どこで?」


「そりゃ、仕事柄いろいろと;笑
 どうだった?猛牛の君は???」


ベイバトルがあるところに彼が必ずいるように、
ブレーダーの情報も全部筒抜けってわけか・・・


いかにも面白そうに、笑う頭中将役のブレーダーDJを見て
ちょっと肩をすくめて、庭の木に目をうつす。


「・・・ひどい目にあったけど、 案外、悪くは無かったぜ。
 心根は優しい人だし、いつもくくっている白銀の髪をおろすと
 そこそこ風情があったしな。」



今度は頭中将役のブレーダーDJが茶を吹き出す番だった。


ゲッホ!

息をすることもままならないというのに、
なかば睨むように源仁を見上げてくる頭中将役のブレーダーDJの
背中をさすってやった。


「・・・お前、変わったなぁ。」


「そりゃ、強くならないとこの物語の主人公は務まらないってことで。」


「でも、俺は頭中将役のブレーダーDJの噂は聞かないぞ?」


「それは仕事が忙しいからだろ。」


「そうそう・・・源仁・・・」


頭中将役のブレーダーDJが湯飲みを縁側におくと
真剣な顔をして、源仁の腕をつかんだ。

そのまま源仁を引き寄せ、その耳元に鼻先をうずめる。


「どうした、頭中将役のブレーダーDJ?」


くすぐったそうに源仁が笑い、それでも突き放すことも無く
言葉の続きを待った。


―ヴォルコフ左大臣がお前を狙っているぞ―


一言だけ。
まるで甘い睦言を囁くような声音で。


「・・・肝に銘じておくよ;;」


その源仁の言葉を聞き、頭中将役のブレーダーDJも身体を離した。




「そろそろ行かなきゃ、隣町で貝独楽の試合が行われるんだ。」


仕事へと時間を気にしだした友人に、ねぎらいの言葉をかける。


「たまには、一緒に酒でも飲もうぜ。」


あぁ・・と立ち上がりながら頷く頭中将役のブレーダーDJ。



「ところで、源仁・・・・」


「なんだ?頭中将役のブレーダーDJ。」


「・・いいかげん、その長ったらしいの、やめないか?」


「"頭中将役のブレーダーDJ"か?」


激しく頷く頭中将役のブレーダーDJに、
源仁は茶の最後の一口をすすって、


「だって、お前のこと本名で呼んでも誰も分からないだろ?」


笑顔で、返した。




「・・・・。じゃ・・また。」


牛車に乗り込む頭中将役のブレーダーDJの背中には
やけに哀愁が漂っていたとか。

12/10

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