「今日は何をしようかな・・・」
何とか屋敷に帰り着きくつろぐ源仁が呟く。
昨夜の朱雀の君との逢瀬を思い出すだけで、自然に顔が緩んでしまう源仁。
何とか体面を保とうと、身なりをただすが
しばらくするとまた自然と(不気味な)笑みがこぼれる。
仕方なく、貝独楽の手入れなどをしてみる。
この時代、「貝独楽」は「蹴鞠」や「歌詠み」と同じくして
大切な貴族のたしなみの一つだった。
「今夜はどこの姫君の所へ行こうかv
朱雀の君・・・もいいが、毎日通い詰めてしまうと、朱雀の君が壊れてしまう!
はっはっはっ!!!」
朱雀の君に蹴りだされときの、痛む腰をさすりながら
気丈にも笑ってみせる。
そして当てもなく、牛車でガラガラと京のまちに躍り出た。
ふと目についた大きな邸宅の前で、牛車は速度を落とした。
中から楽しそうな声が聞こえる。
「Oh!Very cute ネ!」
「コレは・・・異国語と言われているもの!?
ほぅ、めずらしい。」
源仁が、屋敷の裏口からそっと覗くと
縁側で1匹の亀と戯れる姫君が見えた。
日本ではとても珍しい黄金色の髪が、キラキラと太陽の光に反射する。
「あれは・・・・玄武の君・・?」
巷の噂では聞いていたが、なんと見事な髪の色、
そしてこぼれんばかりのつぶらな瞳。
「よしっ!
今夜は玄武の君にお会いしよう♪」
11/13
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「開門、かいもーーーん!」
日が暮れるよりまだまだ早い時間、
意気揚々と光源仁が、水原邸の門をくぐった。
昨日のように、夜中にそっと玄武の君の部屋に忍んでもよかったのだが
玄武の君の父親、水原入道は"大転寺右大臣"の有力な片腕であったので
先に父親にお目通りをしておこうと思ったからだ。
また彼は貝独楽の仕入れ問屋を副業として営んでいたし、
玄武の君の母親、"じゅでぃの上"は有力な貝独楽の研究者として
女性ながらに名を上げていた。
「あぁ、あなたがあの有名なMr.光ナノですネ。」
通された部屋の、几帳ごしに少し異国語のアクセントを含んだ
女性の声が響く。
「存じていただけていたなんて、光栄です。」
深々と頭を下げた源仁。
「えぇ・・・若いパワーに任せてフドウトクの限りを尽くされていると、
常々、耳にしておりますわ。」
「いえいえ、不道徳だなんて・・・まだ朱雀の君をいただいただけにすぎません。」
オホホホホ
アハハハハ
軽やかな笑い声が部屋をつつむ。
「あなたも・・・この私と一夜の激しいアバンチュールに身を焦がしてみませんか?」
「まぁ、ごジョークがお上手なのですね・・・。」
「いえ、几帳ごしでもあなたのよい御香の香りが・・・・
あなたの御髪の美しい輝きがまぶしすぎて、私は・・・・」
源仁が少し前ににじり寄り、
手が2人を隔てる几帳に触れる。
「あなたと直にお会いしたい・・・」
几帳の端が上がりかけて、"じゅでぃの上"の
東洋人とは違う透き通るように白い手がチラリと見えた。
「まぁ、Mr.光。バックにお気をつけ遊ばせ。」
その"じゅでぃの上"の言葉と同時に
「ぐぇ;;」
源仁の直衣が後ろにひかれ、ぐいぐいと絞まる首のため
源仁は几帳から手を離さざるを得なかった。
11/19
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ゴホン
「いや・・・せっかく光殿がお越しくださったのに
仕事でたて込んでいて、失礼しました。」
「いえ、お忙しいのを分かっていて急に訪ねたのですから
お気になさらないようお願いします。」
ぐいぐいと"じゅでぃの上"から、
最も距離があるであろう部屋のすみっこまで引きずられて、
源仁と玄武の君の父親、水原入道は向かい合っていた。
・・・にらみ合っていた。
いや、源仁が一方的に睨まれていた。
ゴホンッ!
水原入道の咳払いで、自然と目が言ってしまう几帳から
むさくるしい水原入道にへと視線を戻す。
「・・・やはりお忙しいのですね。」
愛用の貝独楽を見てもらいながら、軽い世間話から始める。
「えぇ、ヴォルコフ左大臣が妙な動きをみせていまして・・・
近いうちに政変が起こるかもしれない・・・。」
「水原殿!めったなことを口にしてはいけません。
どこに左大臣の忍びがいるか・・・。」
一気に、先ほどとは違う緊張感につつまれる。
このまま左大臣の話をするのはどちらにとっても得策ではないかもしれない
源仁はわざと、いや、一番話したかったことへと話題を変えることにした。
「いや〜。見事な庭ですね。ベイの練習に最適な木々に池に橋だ。
さすが水原殿。
見事といえば・・・貴殿の姫君も、また格段に麗しいとか。」
ピクリと水腹入道の片眉が動き、慌てて、源仁は言葉を続ける。
「いやっ、貝独楽の腕も天下一品だと。
一度お手合わせをさせていただきたいと常、思っておりました。」
冷や汗をぬぐう。
水原入道の機嫌を損ねてはすべてが水の泡だ。
ただでさえ、溺愛の妻に手をだそうとしているところを
捕まっているのだから。
未遂じゃないか・・・という言い訳なんかまったく通じないであろう
水原殿の鬼の形相に、腰が抜けかけたのだ。
「ほぅ、そうでしたか。
玄武の防御は天下一品ですよ。親の欲目もあるでしょうが。」
自慢の息子・・・いや姫君を褒められて、嬉しそうに笑うマックスパパ。
「どうですか、今晩夕食を我が家で食べていかれて・・・
バトルをしてみるといいのでは。」
親の承諾を得て、玄武の君とムフフな時間がすごせるなんて!
源仁が(心の中で)ガッツポーズをして喜んだのは、言うまでもなかった。。。
11/22
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豪華な夕餉が始まった。
次々と並べられるご馳走に源仁が舌鼓を打とうとすると
水原入道がそれを笑顔で遮った。
「光殿。コレをお忘れですよ。」
茶碗よりもはるかにでかい器いっぱいに入れられたマヨネーズ・・・らしきもの。
源仁が止める間もなく、そのマヨネーズのような(あくまでも、ような)ものは
白米、味噌汁、魚、煮物・・・ありとあらゆる食材に
どんどんと盛られる。
「・・・。」
引きつった笑顔で、水原入道にお礼をいい、
源仁は目をつぶり、必死で腹におさめた。
「おぉ、光殿。いい食べっぷりだ。 どうです?おかわりを・・・。」
「いえ。十分満足にいただきました。 ありがとうございます。」
青ざめる顔を隠しつつ、笑顔で即答する。
その後にセッティングされた玄武の君とのバトル。
大丈夫だろうか・・・と腹をさすりつつも
源仁も貝独楽の準備をした。
普段、姫君は男性の前に顔をさらさないものだが
バトルとなっては話は別。
十二単に動きにくそうにしながらも
マックス扮する玄武の君が勢い良く庭に降り立った。
「疾風の源仁!いざ、勝負ネ!!!」
「・・・・玄武の君。俺も負けないぜ。」
玄武の君の頬はこんなに柔らかそうだったのか・・・・
あぁ・・・あの口の"w"のカタチの何と愛らしいことかvv
源仁の頭の中はすでにバトルから離れかけていたが
掛け声で急いでシュート体勢に入る。
「3・2・1〜 ・・・ゴーシューーートッ!!!」
水原邸の庭全体という広すぎるスタジアムを使っての激しいバトル。
源仁のベイは防御型のドラシエルに体当たりをして
ジリジリとパワーで池の方へと追いやる。
「くっ・・・ネ!ドラシエル〜!!!」
マックスの掛け声で、ドラシエルから玄武の聖獣が立ち上がり
その背後から高い津波が源仁とそのベイを襲った。
「甘い!!!」
ドラシエルが巻き上げた水柱を鏡に見立てて、
そこを影を操り縦横無尽に走り、攻撃をくわえる。
「これで、決まりだ!」
源仁の声が高らかに響き渡り、結果はドラシエルのスリープアウト。
水原入道と"じゅでぃの上"の拍手が二人をつつんだ。
「さすがは、タカオ君の兄上。」
そんな賞賛に少し照れながらも、2人歩み寄り握手を交わした。
「いいバトルだった。」
「Thank youネ。」
その玄武の君の手のなんと柔らかいこと。。。
これを逃す手はないだろう!
源仁があらためて決意を固めていると
「さぁ、もう日も暮れてきました。」
そんな水原入道の言葉で
そのまま3人に見送られて、源仁は水原邸を後にした。
角を曲がったところで
牛車が止まり、人目を避けるように待機していたことを誰が知るだろうか。
(・・・いや、誰も知らない?)
そう、みんなが寝静まるのを待ちわびて
源仁は再び水原邸に向かった。
こっそり外からノックをする。
コツコツ
「・・・・誰ネ?」
すぐに返事が返ってきた。
「源仁でございます。」
「・・・。」
暫くの沈黙の後、コトリとカンヌキが外される音がして、
源仁はそっと格子を上げて、中へ入った。
薄明かりの中、寝具の上に人影が横たわる。
微かに動くその影。
「あなたとお話をしたくて・・・引き返して参りました。」
そっと人影に近づき、腰に手を添えた。
ビクリと反応する、その気配に
「怖がらなくても良いのです・・・俺に身を任せて。」
耳元でそっと、低音を響かせながら囁くと
ゆっくり抱きしめる。
首筋にキスを落としながら、薄い寝着をまさぐる。
「・・・ん?結構、着やせするタイプなのですね・・・?」
手に触れるたくましい肉体に疑問符が源仁の頭をよぎった。
さっと月明かりがさして
自分がかき抱く愛しい人を見やれば
そこにいたのは
「・・・リック!?
あ〜・・・えっと・・・猛牛の君;;」
そこには猛牛の君こと、リックが驚愕の表情で・・・いた。
「hikaru-no-kimi・・・」
コイツを姫役にするのは
あまりにも人選ミスではないのか!?
お互い、おかれた状況が情けなさ過ぎて涙が出てくる。
そういえば、水原入道がウチにはもう一人、姫がいるとかいないとか
言っていたかも知れない。
そんな記憶をたどるも後の祭り。
据え膳食わぬは男の恥、だとか
男性が忍んできた先で、女性に尽くさないのは無礼である、とか
女性の部屋に忍んでおいて、何もしなかったのでは悪評判がたつ、だとか
そんなこんなで
泣く泣く、2人熱い夜を過ごしてみたのでありました。
そして、奥の部屋では
「ボクのディフェンスはバッチリネ。」
と安眠を貪る玄武の君の姿があったりしたそうな。。。
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