〜源仁物語〜



それは昔々のお話。
生命が競いあって芽吹く季節。
そう、周りの景色を好奇心と不安で満ちた目で見つめる子供のような春の日に
この物語は始まったのです。



源仁物語




「俺が光源氏役か。まっ、たまにはタカオが主役じゃなくて、
 ベイブレード界に新たな風を送り込むことも必要かもしれないな。
 うん。ははっ!役得役得!いろんな可愛い子をコ マすぞ〜!」

だなんて、考えても口に出さない男、"光源仁"こと、木ノ宮仁。
今日も周囲の人に、光輝かんばかりの笑顔と不吉な予感をふりまいておりました。


「今日は絶世の美女と噂される朱雀の君の元へ行ってみるか…」


源仁はご機嫌で牛車に乗り込みました。


光と影が色濃い、この京のまちを舞台として
筆者の一抹の不安と共に、光源仁の華々しい(?)活躍が始まったのでありました。

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ガラガラガラ・・・夜も落ち着きを見せはじめた京のまちに
牛車の進む音が厳かに響き渡っていた。

一軒の寝殿造りの裏門の前で、その音は急に止むと
中から、輝かんばかりの若者が降り立つ。
そう言うまでもない、光源仁だ。

供の者に、待っておくように言い残し、
屋敷にそっと忍び込む。
目指すはもちろん、この屋敷の一人娘、朱雀の君の部屋だった。


月明かりに助けられて、庭を進む。

「さて、朱雀の君の部屋はどこだろう・・?」

適当に検討をつけて、進んでいくと

とある部屋の前を通りがかるとき、甘い御香の香りがした。
ただ甘いだけではない、
同じ甘さでも、人に媚びない甘さとでもいうのだろうか。

人を最上の気分に酔わせるのに、次の日に二日酔いに持ち込ませない
上等な酒のような・・・?

「こりゃ、ビンゴかな?」

源仁はそっと、部屋の格子をノックした。

コツコツコツ

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コツコツコツ

「朱雀の君・・・朱雀の君?
起きていらっしゃるのだろう?さっさと開けてくださらぬか。」

乗ってきた牛車を外の、目立たぬ場所に待たせ、
朱雀の君の部屋だと思われる部屋の外の格子をたたく。

すると中から、透明感のある声が返ってきた。
少しハスキーなそれは、まぎれもなく愛しい朱雀の君のものだった。


「御黙りくださいまし。光の君様!もう夜も遅うございます。」


コツコツ

「良いではないですか。この光源仁、貴女様を慕ってお会いしに参りました。」


コツコツコツ


コツコツコツ



コッ・コッ・コココッツ! コココッツ・コッ!!!

「なぁ、おいってば!朱雀の・・・カイ!!!」



「きっさま!曲がりなりにも光源氏役なら、唄の一つでも詠みやがれ!」


あまりのしつこさに、とうとう朱雀の君が耐えられなくなったようだ。
静かな闇夜に、怒声が響き渡る。


「・・・唄?」

暫く頭をかしげ、考える源仁。

静かになった外の様子を火渡カイが扮する朱雀の君が
恐る恐る伺う。



「過ぐすをも〜  忘れやすると程ふれば〜
 いと〜恋しさに〜  今日は  負けなん〜♪
                (あなたを忘れられるかと、日々を過ごしてたんだけど
                 時がたつにつれて、どんどん恋しくなるんだ、
                 もう、その気持ちに抗わないよ。
                 会いに行っちまうよvv・・・    
ま、こんな意だと
 ・・・・どうだ!!!」



「・・・・(ほっ本当に詠みやがった。。。)」


格子を開けさすまいと、必死に格子にしがみついていた朱雀の君が固まる。

返歌を・・しなければ・・・;;
返歌を・・・。
・・・・・・・ん?




「ちょっと待てぃ!
 "和泉式部日記"にそんな唄があったはずだぞ!?」

ガッ!!!

あまりの怒りの勢いで、朱雀の君は自ら格子を上げてしまった。
仁の嬉しそうに顔を見て、後悔しても後の祭り。


「ちっ、ばれたか。さすが、カイだ。
 でも心情はぴったりだろ。パクリだけどな♪」


源仁は半ば悔しそうに、でもカイ、いや朱雀の君と対面できて
とても嬉しそうに白状した。


「さぁさ、朱雀の君。今夜はたんと愛し合おうか。」



「っよるな!」



「何を今更・・・俺は絶世の美男子、光源氏役なんだぞ。
 この物語の主人公なんだ。
 さ、いい加減覚悟しろ。」




月明かりがかろうじて届く、朱雀の君の寝室。
かすかに聞こえる衣擦れの音が
カイの悲鳴が・・・
明け方まで、途切れることは無かった;;

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力の抜けた身体を投げ出した朱雀の君に
そっと着物をかけてやりながら
その柔らかな薄青色の髪に口付ける。

「・・・ん」

泣きはらした目を、朱雀の君がそっと開けた。
自分を包む人肌の温かさに、
心地よい、と寝起きの、ぼーっとした頭のまま擦り寄る。

「起こしたか?」

「いや・・・・・・って貴・・様!!!」

昨夜の記憶をたどりつく。
眠気の誘惑を遮り、怒りを蘇らせる朱雀の君を
源仁が「もう少し寝てろ」と寝具に押さえつけた。

「なぁ、朱雀の君・・・」

「・・・なんでしょう?ヒカルノキミ?」

「うっわ、怒ってる;;
 ・・・俺の・・・紫の上にならないか?」



源仁が朱雀の君の髪をゆっくりと撫でながら言った。

その言葉の意味をゆっくりと探った朱雀の君が、
髪を撫でられることの心地よさにまどろみながらも、
はっきりとした言葉で返答する。



「俺に、貴様の愛人になれ、というのか?」


そう、紫の上は光源氏最愛の人ではあったが
正式な妻では無かった。


朱雀の君のその言葉で、源仁も少し思いをめぐらせる。


「・・・でも、俺はやっぱり、朱雀の君を一番に愛して生きたいんだ。」

「・・・バカめ・・」


源仁の顔が近づいてきて、朱雀の君もそのキスを受け入れた。
しばらく、二人が舌を絡める音だけが、その空間を支配する。
やっと、唇がはなれ
朱雀の君が、さきほどの源仁の言葉に
なんと返したものかと思案する。

「・・じ」

朱雀の君が何かを言いかけた瞬間。


「でもやっぱり、紫の上がいいなぁ。
 山の中で見つけた自分好みの子を、
 拉致って、自分で思いのままに、調教する・・・・vv」

やはり同じように思い悩んでいた源仁から呟きが漏れた。

「・・・(怒」

「なぁ、カイ。やっぱり俺の紫の上に――


腰にまわしてくる源仁の手を跳ね除けて
朱雀の君は叫んだ。


「ふっざけるなーーーーーーーーー!!!」


そのまま朱雀の君に寝所から蹴りだされた光源仁は
すでにすっかり夜が明けていることに気付き

慌てて、牛車に乗って帰っていったとさ。

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