〜源仁物語7巻





「源仁さま・・・」


縛り上げられて、猿ぐつわを噛まされていた従者を助け起こす。

「大丈夫か?」


「す・・すみません。天皇の御皇居から源仁さまが出てこられるのを
 お待ちしていたときに、後ろから殴られまして・・。」


朱雀の君の屋敷に向かっているはずだった。
今日は朱雀の君とめいっぱい楽しむはずだった。



牛車が付いたところは
高い高い高床式住居の前。


・・・弥生時代?


高床式住居って・・・えっとネズミとかが侵入して
穀物が食い荒らされないために工夫された貯蔵庫だったんだっけ?


よくこんなに積み上げたものだ。
ゆうに20階はあるであろう、超高層"高床式住居"を見上げる。



倒れないのかな?


そう、ここはヴォルコフ左大臣の屋敷。
大転寺右大臣と政界を争って言う男だ。
それも胡散臭い男。

"頭中将役のブレーダーDJ"が
ヴォルコフ左大臣に気を付けろと言っていたっけ?


ただ、ここにいつまでもたたずんでいたって仕方がない話。

源仁は一回、大きく深呼吸をすると
門の中へと、一歩を踏み出した。





見かけこそ、高床式住居だが、中身はきちんとしたビル。
実は時代背景にあっていない。

前に立つとプシューと音がして開くドア。


通された部屋は、貝独楽の練習場が見渡せる窓が設置された
ヴォルコフ左大臣の部屋だった。


「ご無沙汰しております。左大臣殿。」


怪しい男と言っても、左大臣(役)。
礼を尽くし、頭を下げる。



「貴方の訪問を心待ちにしていましたよ。」



無理やり連れてきておいて、"心待ちにしていた"も無いよなぁ。


立派な椅子をくるりと回して
ふりむいた彼は
暮れかけの空の色を髣髴させる、群青色の直衣姿で。



「君の考えを聞きました。
 明日には、この貝独楽界は私の手に落ちるでしょう。」


いきなり切り出された話。そして突かれた核心。
源仁の考え。
それは"貝独楽の宴"の際、カイに告げたこと。


ーヴォルコフ左大臣が政権を掌握したときには、 そちら側につく (かもしれない) ー


それは源仁が悩んだあげく、導き出した考えだった。


やはり、"貝独楽の宴"にも監視を放っていたか。
相変わらずの腹黒い!
思わず笑いそうになった。


その笑いを噛み殺して、ヴォルコフ左大臣の前に立ち直る。


「詳しいことは後ほど。
 貴方のための部屋へご案内しましょう。
 あぁ、それと橙の君のコーチをしてもらいたい。
 橙の君にも会う必要があるな。」


従者を呼ぶと、「源仁殿を部屋へ」と言いつける。
そして立ち上がると
従者と供に歩き出した源仁を送り出すように
源仁の背後に立ち、

「君には期待していますよ。」


耳元で怪しく囁いた。


源仁はその囁きよりも、さりげなく源仁の腰に回されたヴォルコフの手に
寒気と嫌〜な予感を感じていたとか、いなかったとか。

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