ずっと・・・
昨夜から、冷たい雨が降っている。
カイはマンションの部屋に戻ると無造作に靴を脱ぎ、
濡れた体を引きずるようにして部屋に入った。
しばらく主がいなかっただけで、部屋は生活感を失いかけている。
普段は寮生活のカイ。
それでもこのマンションの一室を手放さずにいたのは
自分ひとりだけの空間を確保したかったからだ。
最近では一人ではなく、騒がしい訪問者との二人だったが。
しかし、それももう無いのかもしれない。
カイはバスルームへと向かいながらぼんやり、考えていた。
レイは次の世界大会出場のために故郷に帰ると決めていた。
・・・自分の考えを簡単に変えない男だ。
彼は確実に白虎族に戻るだろう。
「もしかしたら・・・」
どこか彼方を見つめながら、考え事をしているレイを見て、
カイは何度かそう考えたことがあった。
そして、とてもレイらしいと思った。
自分が好きになった レイ らしいと。
少し熱めのシャワーは、冷え切ったカイの体をやさしく包む。
正直、一人でこの部屋にいるのは嫌だった。
しかし、この部屋にかつては存在していた温もりをこのまま無くしてしまうのも
たまらなく嫌だった。
俺がここにいなければ、あいつと一緒に過ごしたこの部屋は消えてしまう。
・・・いつの間に俺はこんなに弱くなってしまったのだろう。
カイは自嘲的な笑いをもらした。
ずいぶん長い間、シャワーをあびていた。
冷えきった空間を、あいつのいない部屋を目にするのが嫌だったから。
しかし、いつまでもここにいるわけにも行かない。
あいつも自分の新たな道を決めた。
俺も、前へ進まなければいけない。
カイはシャワーを止め、バスローブを羽織ると洗面所から出てきた。
その瞬間、暖かいコーヒーのにおいが漂ってきた。
カイは、はじかれたように顔を上げ、リビングへと急いだ。
挽きたてのコーヒーをマグカップに注ごうとしていたレイは、振り向いた。
そこにはいつもどおりの笑顔。
「カイ、いつからそんなに長風呂になったんだ?
あまり長いから、様子を見に行こうかと思ってたんだぜ」
レイはクスクスと笑いながら、カイにマグカップを手渡した。
「・・・貴様、・・な・・ぜ?」
もう中国に帰ったと思っていたレイが部屋にいることが信じられなかった。
「まだ、帰ってなかったのか?」
カイはレイの見送りに行かないことに決めていた。
キョウジュには「行きましょうよ」と誘われたが、未練がましく思えたのだ。
レイは、なぜカイがそんなに驚いているのかを理解すると、ゆっくりとうなずいた。
「あぁ。 明日の・・・午後の便で行く。」
「・・・・。」
「本当は、今日の予定だったんだが、
もう一度、ゆっくりここに来たかったんだ。」
レイは部屋をゆっくりと見渡しながら、窓際のソファーに腰をかけた。
「・・・勝手にしろ」
カイは小さい声でつぶやくと、レイの隣に腰をかけた。
ーまた、いつでも帰ってこい。 俺はずっとここにいるからー
END
こんな別れを想像(創造?)してみました。
でも、なんか第3話でもレイ君は日本にいますね。
マックスは行っちゃったのに。
この中にカイ様は、ちょっと弱気なカイ様です。
ストイックなカイ様もいいけど、こんなカイ様もいてもいいと思うの。
・・・ソファーに並んで座った後、二人はどうしたんだろうね〜?
裏ネタに行こうかと思ったけど、また次の機会にします。
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