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ネコの鳴き声がする。
ネコが甘えたときの、のどを鳴らすゴロゴロという音が―

 
ある晴れた日、火渡カイはベイの練習のために川原に行こうと屋敷の門を押した。
専属の運転手が「お送りします」と声がかけるが断る。
川原まではそう近いわけでもないが、歩いていけない距離でもない。
 
道を歩いていると、よく猫の声がする。
発情期は終わったはずだが・・・とカイは考えながら火渡家の高く長い塀にそっていていた。
だんだん猫の声に近くなっていく気がする。
 
1つ曲がり角を曲がると、レイが壁に向いて立っていた。
彼は壁の上を見上げるようにして、何かをしゃべっている。
その視線をたどると塀の上には1匹のネコ。
レイが人の気配を感じ、こちらを振り向く。
まるでそこにいるのがカイだと分かっていたように、驚いた様子も見えずにっこり笑った。

 
「よぉ、カイ!」
 
そして再びネコの方を向くと、
「うにゃ うにゃ にゃ〜ん」
と起用に猫の鳴きまねをして、カイの方に向き直った。
ネコも何度か目を細め、スタスタと塀の上を歩いて去っていった。
 
「・・・今・・何て言ったんだ?」
 
「ん?あぁ、“助かったよ、ありがとう”って言ったんだけど、分からなかったか?」

 
一般人には分からないだろう!と突っ込みを入れたい気持ちを押し殺して
「何が“ありがとう”なんだ?」と尋ねてみる。

 
「カイの家まで来たはいいんだけど、門から入るよりここから塀を乗り越える方がカイの部屋に近いだろ。
 でも行き違いになっても嫌だし・・・そしたらマサやんが“カイはさっき玄関に向かってたからもうすぐ出てくるぞ”って教えてくれて♪」

 
カイがガクッと肩を落とした。
 
「そのほかにも、昨日カイは11時に寝た、だとか・・・ん〜夕食前に風呂に入った、とか・・・vv」
 
 俺のプライバシーは猫からもれるのか?!

あまりにもやるせない気分になったカイはレイを置いて歩き出した。
5歩ぐらい、歩いただろうか。
 
レイの「カイッ!!!」という叫び声と共に
黒塗りのいかにも怪しいそうな車が派手な音を立ててカイの横に止まった。
後頭部座席から大きめのサングラスをかけて顔を隠した男がカイにむけて手を伸ばすのが見える。
 
―誘拐―
塀に遮られ、横に逃げられないカイは前方に走り出した。
男がカイの腕を掴みかけた瞬間、カイは身体が宙に浮くのを感じた。
 
そして次に、目線がやけに高くなる。
 
「レッ・・!」
カイは慌てて、自分を抱きかかえて走る少年を見上げた。
レイが咄嗟にカイをお姫様抱っこで抱えると、
高さがゆうに2メートルはあるであろう塀の上に飛び乗り、その上を走っていた。
 
「レイ!」
 
「動くな、カイ。バランスが崩れる。」
 
険しい顔をしてかなりのスピードで走る。
高さ2メートル、幅20センチほどの塀の上をだ。
黒い車はレイを追う。
 
「レイ!塀の中へ。敷地内に降りるんだ!」
 
塀の中は火渡家の庭。
そうなるといくらなんでも追ってこられないだとう、ということだった。
 
「嫌だ!」
 
「レイ!?」
 
「ここで家に帰ったら、今日はもう出かけられないだろう。
 こんなにいい天気なんだ!俺はカイと一緒に出かけるんだ!」
 
「ま・・俺に任せとけって!」
 
そういうとレイはスピードを上げた。
 
レイは起用に狭い場所を通り抜ける。
塀の上から屋根に飛び移り、狭い路地を抜け、誰かの家の屋根裏をとおり・・・
 

「ちょっと待て!どこへ行く気だ!?」
 
「大丈夫だって!怖かったら目をつぶっとけよ!」
 
その次の瞬間
カイを抱えたレイが5階ほどのマンションの屋上から飛び降りた。
服も髪も上へと唸りを上げる。
 
「ひゃっほ〜!!!」というレイの気持ちよさそうな声を聞きながら
「〜〜〜!!!」
思わず目を閉じたカイは死を覚悟した。
 
 
 
 
 

猫の鳴き声がする。
ネコが甘えたときの、のどを鳴らすゴロゴロという音が―
 
額にひやりと濡れたものを押し当てられてカイは目をあけた。
顔のすぐ横には毛むくじゃらの物体があって。
自分に押し当てられた冷たいものが、猫の濡れた鼻だと気付く。

 
「ん・・・ここは・・・レイ?」
 
「おう。」
 
目の前にいた猫が返事をした。
きちんと目をあけてみると、その猫が自分と同じくらいのかなりの大きさであることに気付く。
「・・・(でかっ)」
 
「起きたんなら行くぞ。時間があんまりない。」
その猫が、レイの声でしゃべる。
 
長毛種とまではいかないが、長めの毛のその猫は、見慣れた金色の瞳の輝きを持っている。
模様は「キジ虎」
 
「そう・・白虎のような・・?!」
 
「レイ!!?貴様・・そ・・のネ・・コ・・?」

 
カイの叫び声に猫レイが振り向く。
 
「何だよ、カイ?お前だって・・」
 
猫レイに促されて、近くの水溜りを覗く。
そこに映るは2匹の猫の姿。
上記の猫レイの横に、驚いたような表情のシャムネコのような猫が座っている。
ただ少し普通の猫と違うのは、瞳が深い紅だったこと。
 
「・・・・。」
 
固まる猫カイを促して猫レイはご機嫌に歩いていく。
自体が飲み込めない(飲み込みたくない)猫カイは仕方なくそれに続く。
 
―夢だ。これは・・−
 
 
地面から15センチほどの高さで見る町の様子はまったく違ったものだった。
小さな子供に見つからないように、
車や自転車に轢かれないように注意しながら歩いていく。
人も何もかもがとても大きく見えて、巨人の町に迷い込んでしまったようだ。
ただ太陽の日差しがいつもより心地よく、
自然の音や風が、2匹を優しく包んでくれているようだった。
 
街中で時々見かける普通の猫たち。
猫カイたちに興味を示さないものもいれば、律儀に挨拶をしてくるものもいる。
猫レイは手馴れた様子で、町を通りぬけていく。
 
なんて身体が軽いのだろう。
1メートル以上ある塀の上にも軽々と上ることが出来る。
徐々に猫カイも慣れてきたのか、
いつもと違う視界、いつもと違う風の匂いを楽しむ余裕も出てきた。
 

ふと猫レイが立ち止まった先は、2階建ての小さなアパートの1室のベランダだった。
猫レイはいたって普通に、いやむしろ甘えるように
「ウニャ〜〜〜〜〜ン♪」と鳴いた。
 
 
「あら、いらっしゃい。今日はお友達も一緒?珍しいわね。
 待ってて。今、おやつもってきてあげる。」
 
優しそうな女の人の声が、台所の方へ入っていく。

 
「おい、貴様。」
猫カイが猫レイをこずく。
「大丈夫だって、カイ。ここのお姉さん、いつも優しいんだぜ!」
 
足音がパタパタと近づいてきて、猫カイもつられて女の人の顔を見上げる。
 
「あら。君の瞳は紅いんだね。珍しいけど・・とってもキレイね。
 ほら、お食べ」
 
小皿に入れた煮干しを差し出された。
猫レイは、皿を置いた手に額を擦り付けて親愛の情を示している。
 
「カイ。いただこうぜ♪」
猫カイを振り向く。
猫レイと猫カイの会話は、普通に猫が話しているようにしか聞こえないのだろうか。
女の人はニコニコと2匹(人)を見ている。
 
「うまいぞ!」

猫レイがパリパリと子気味よい音を立てて煮干しを食べはじめた。
まったく気が進まなかったカイも、これも礼儀かと1匹だけ口に運んでみる。
 
「・・・・・うまぃ・・・」
「だろv
 
「何で煮干がこんなに上手いんだ?!」
「そりゃ、猫だから、だろ」

猫レイの言葉が腑に落ちないながらも、
なんとなく納得しながらも、煮干しは
2匹の腹を満たす。
 
 
 

その後、女性に見送られて、2匹は再び歩き出した。

「お気に入りの昼寝場所があるんだ♪」

猫レイについて歩く。
煮干で膨れたおなかと、暖かな日差しが
歩きながらでも強烈な睡魔が猫カイを襲う。
猫レイの案内された場所は静かな草むらだった。
危険なにおいもしないし、睡魔もそろそろ限界だ。
2匹、寄り添って甘い誘惑に手を伸ばす。

猫は、こんな世界で生きているのだろうか?
こんなにステキな自然の恩恵を受けて

猫レイの
甘えたような、のどを鳴らすゴロゴロという音が―
猫カイの気持ちを穏やかな、気持ちへと導・・・

 
 
 
 
 

「カイ・・カイ、起きろよ!ベイの練習するんだろう?」
 

泥のように深い、心地よい眠りからレイの声に起こされた。
目をあけると、カイを覗き込むレイの顔が見える。
上半身を起こして周りを見ると、そこはいつもベイの練習をしている川原の土手だった。
アスファルトに舗装されていない草むらに横になっているようだ。

 
昼前に家を出て・・えっと・・
カイは頭を振りながら記憶をたどった。
 

誘拐されそうになったところをレイに助けられて・・ビルから飛び降りて
ネコの・・・ネコ・・に・・?

 
勢いよくレイを見上げると、いつもと同じ金色の瞳が柔らかく微笑む。

 
 
・・気のせいだ。
認めるのは悔しいが、きっと5階マンションから飛び降りたときに意識を手放して・・しまったに違い・・・ない・・。

プライドの高いカイが何とかそう思い込もうとしていると

 
「ふぅ〜・・腹すいたな。さすがに煮干しだけじゃ物足りない・・・。」
 
そんなレイの声がカイの耳に届いた。
 
・・煮干し。
さっきから微かに、口の中に残っているこの苦味は・・・
煮干しの味ようだが・・まさか・・。

 
混乱して頭を抱えているカイに気付いてないのだろうか。
カイの横に座ったレイは、腹の虫をもてあましてため息をついている。

 
・・現実であったにしろ、夢にしろ、
今、自分はちゃんとした人間なのだし・・

 
暮れかけた夕日を見て、「帰るぞ。」とレイに声をかける。
 

美しい夕暮れ。
きっと明日も晴れるだろう。





はい。ものすごく久しぶりのレイカイ小説、UPです。
これは・・・レイカイではないですね。レイとカイで、いきましょうか。
そしてパラレルちっくで;;

だいぶ前に書いたものです。2ヶ月以上前。
猫レイと猫カイを漫画絵ではなく、本物摸写みたく書きたくて、ほうっておいたら長時間が経過。

『猫レイと猫カイに煮干しを上げたのは・・・それはきっと貴女です!!!』
ってこんなところでドリーム的要素を組み込んでどうする、自分;;
それも萌え要素がなさそうですね。

とりあえず載せますね。
なんか、もう、「カイ様、お疲れ様でした!」の一言につきます。

そしてここまで読んでくださったあなたにお疲れ様です!
ありがとうございました!

2003.9.23

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