暁に
軽く交わす言葉が
例えようもなく好きだった

 

 

 

 

レイ兄 レイ兄っ!

 

肩をゆすられて、柔らかい眠りから意識を浮上させた。
夜鳩の鳴く声が遠くに聞こえる。
薄く開いた目に薄紫色の空間が見えて、ここはどこで
今がいったい何時なのかとぼんやり考えた。 
まだ視点が定まっていない先で、ピンクの髪が揺れる。
 

「んぁ?マオ?」

 
声は低く、寝ぼけている。
 

「ほら起きて、レイ兄」
 

薄い掛け布団をはがされ、レイは渋々起き上がった。
散らばる黒髪をまとめくくる。

 
「何だよ、こんな朝早くから」
 

不満が滲む声で呟けば
 

「何よ、この時間に起こせと言ったのはレイ兄でしょ」

 

呆れたように返されて、レイも黙った。
 

そういえば最近の悪習慣をライに咎められて
太陽の昇沈とともに生きる生活を取り戻すことにしたんだっけ。
日本でも不規則な生活を送っていたわけではないが、
都会と山奥ではやはり時間の流れが違う。
日本でモゾモゾと布団に潜り込んでいた23時は
村ではもう夢の折り返し地点なのだ。
 
夢の世界へ帰ることを諦めて立ち上がり、
まだ眠りを欲する体を持て余しつつ、外に出た。

 

最近は眠りが浅い。
すべてを飲み込むような静けさの山音に包まれるのは心地よいのだけど、
何か物足りなさがレイを捕らえている。

 

それはきっと日本に生きている、あいつの鼓動。
手を伸ばせば届く、その距離で確かに感じていた、カイの気配がないからだ。

 

陽が昇る前の空気は蒼く沈み、レイの体を包む。
夜は太陽の光が届かないから暗くなるのだが、
実際は濃い青と紫の空気が山間に溜まるから、この色合いが作られるのだと思う。

 

白虎の村ではほとんど必要とされない時計を懐から取り出し、
時間を確認する。
4時をすぎたところ。
あと1時間もすれば、眩いオレンジの光が山際からのぞき、
朝を待ち望んだ小鳥や獣の声の祝福の声を聞きながら。
この薄闇は幻のごとく溶け消えるのだろう。

 

1時間の時差があるから、日本はもう朝の5時すぎ。
それでもまだきっと夢の中にいるだろう、カイを思う。
幸せな眠りを貪っていると、いい。
心から思う。

 
ふとした違和感に、頭を振る。
朝を迎えるこの時間は確かに懐かしいものだが、
日本に行く前とは気持ちが少し違う。
昔のように穏やかな気持ちでは立っていられないのは何故だろうか。
少し冷えた空気の心地よさとは別の、泣きたくなるような
燻りが心の中にある。
少し甘く、少し切ないこの記憶はどこに由来するものか。

 
 
 
 

カーテンで仕切られたあの部屋の
外の世界がこんな色を帯びていたなんて、日本では知らなかった。
いや、知っていたが、知らないふりをしていたのだ。
夜が終わるのが、切に感じられたから。
カイと並んで眠る、あの時をいつまでも続けたかったから。
必死で窓の外の空気の変化を感じないようにしていたのだ。
少しの刻が大切で愛おしかった、あの部屋。

 
ふと目が覚めたのか、
カイの手放されていた意識が戻るのが感じられて

 

カイ?

なんだ?レイ

 
問いかけに柔らかく答える口調は甘く
カーテンの隙間から忍び込んだ、
夜も更けた朧な気配に、カイの視線が向けられる。
その横顔だけで、レイは満足だったのだ。

 
遠い月の光に目を細めながら、自分の隣で身体を
投げ出していてくれる、その存在だけで。
 

 

 

 

 

徐々に移り行く空気はレイの体に絡まり、
視界を染め抜く暁の空色はレイの中国服も鮮やかに染めた。
 
あぁ、なんだ
内にばかり捕らわれていた俺は
外のこんな素晴らしい色を忘れ去ろうとしていたんだ。
起き上がってしまうと
柔らかいカイの横顔が消えてしまいそうで怖かったから。

 
でも俺は、思い切ってカーテンを開け放すべきだったんだ。
この色をカイと共有したかった。
生命の誕生にも似た、朝を迎える儀式の
この素晴らしい色をカイと一緒に見たかった。
きっとカイも言葉をなくして、その色に見とれただろう。
そんなカイはきっとずっと綺麗で、
俺は至上の楽園をそこに見つけただろう。

 

 
群青から蒼に、橙を含んだ甘い空気はこんなにも
お前の内面に似て、
光、溢れる大地を迎えいれ、目覚めさせる。
窓の外に嫉妬して、必死でカイの気持ちを部屋の中に留めようとしていた
ちっぽけな俺も、惜しみなく受け入れる。
 

 
カイと一緒にこの色を見たかった。
カイと共に暁に焼かれたかったのだ。
 
暁の夢に焦がれる。
それは俺の傍らで眠る貴方の色
 

暁の色に焼かれる
胸に高鳴る、貴方への想い

 
暁の夢はカイ
朝の光にかき消されることのない、俺の大切な想い人

 

 

なぁ、マオ。
ちょっと3日ほど出かけてきてもいいか?
ライにはうまく言っておいてくれよ
 

返事も聞かずに走り出した。
壷をひっくり返して、パスポートとお金を取り出す。
ドライガーを握り締めた。

 

今日の朝焼けは見えないけれど、
そうしたら夕焼けの蒸しあがるような赤を見つけよう

 

俺の暁の夢と一緒に







3年ほど前に書き上げていたレイカイが出てきました!
「こんなイメージが書きたい」な気持ちだけが先行しちゃってる文章ですね。
書いたことすら忘れ去っていたので、ビックリしました。
Gレボのすべてが終わったあとの、それぞれの国の日常へ帰っていったその後・・・ってイメージだったのかしら?

稚拙でお恥ずかしい限り。
でも今現在からすると、ブランクがありすぎるので
3年前のこの文章よりももっとずっと文が書けない自信があります。
お目汚しでしたが、
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。

2009.06.14

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