『俺ならお前を守ることができる』


そう言ったのはいつだったか。


若葉が芽吹くうららかな春の日だったか。

身体にまとわりつくような湿度から逃れようとしている夏の日だったか。

色づく葉のヒラヒラと舞い散る秋の夕暮れだったか。

しんしんという言葉がぴったりの冷えの中で、肌を寄せ合った冬の日だったか。



記憶をたどっているうちに
一年の四季を軽く巡ってしまう。
その中の要所にも、ほんのたわいのないところにも
そいつの姿があることが、ほのかに嬉しい反面、妙に腹立たしい。


そう、振り向けば必ず、彼の笑顔が――――








Seasons with you








 みゃぁ


か細い声がした方へ目をやると
何度か餌をやったことある猫がしっぽをゆらゆらと揺らしながら
寝転がるカイの傍らへと近寄ってきていた。

初めて見つけたときは、まだ離乳したばかりほどの小さな子猫だったが
だいぶ、大きくなった。


ふんふんと鼻を動かしながら、寄ってきてカイを見下ろす。
軽くカイの匂いをかいで、今日は食べ物を持っていないのだと知ると
それでも無邪気にカイの腹の上に登った。



「・・・おぃ。重い。」


カイの抗議をもちろん聞き入れることなく、
そのまま、ごろごろとノドを鳴らしながら落ち着く。



「・・・だいぶ大きくなったな。けっこう、重い。」



カイが独り言のように呟き
ゆっくりと手を伸ばせば、耳をピクリと動かすものの
そのまま黙ってカイにその身を許す。
呼吸で静かに上下する丸い背中を撫でると
柔らかい純毛100%の毛が、とても心地よい。





   『カイは猫に似てる』



頭の片隅から声が蘇る。
その声は頭の中に反芻して響き、
ぼやんと痺れたような甘美さをカイにもたらした。



さすが年の功と言うべきか。
腹が立つほどの余裕を持って、仁はカイを抱いた。

その余裕はどこで見つけたものなのか
聞きたい気持ちもあったが、そんなことをカイのプライドが許すわけもない。

与えられる快感から逃れるわけでなく、
むしろ立ち向かっていくように、仁に抱かれるカイを見て、
仁は笑っていた。


それが気に入らなくて
それでも、仁が笑って嬉しそうに自分を抱きしめることに喜んでしまう自分もいて。




熱い吐息を吐き出し終わった気だるい身体を
仁の身体の上に投げ出して、休息をとってやった。

「重い」と文句を言いながらも、その口調とは裏腹の優しい目で
仁はカイの背を撫で続けていた。
伸びかけた襟足をつかまえて、軽く弄んで、後ろ髪へと手は伸びる。



   『カイの髪の毛は柔らかいな。 猫、みたいだ。』

















ふと意識が途絶えていたことに気付き目をあけると
カイの腹の上で猫は、先ほどと変わらぬまま
ゴロゴロと甘える音を響かせながら
心地よさそうに目を閉じている。


仁に「猫のようだ」と言われたときは不機嫌そうにしてみせたけど

こうしてみたら、

仁にとっては似たようなものだったのかもしれない。
もちろんカイはゴロゴロとはノドを鳴らせはしないが。





すぎさった出来事の記憶は、やがて美しい 、だなんて






いつでも笑っていた、ように思える。

カイがBBAレボリューションズには入らず、ネオボーグに移籍すると言ったときも
少し心配そうな顔で見送りにきたが、
それでも、タカオの説得は任せろと言わんばかりに笑ってみせた。


BEGAに乗り込むときも
違っているのだが、きっと根本では似た想いを抱え、供にあのビルを目指すカイを
安心させるように微笑んだ。
そして、今の自分の状況を楽しむかのように不適にヴォルコフに笑ってみせていた。


その企みは、今となっては成功という二文字を与えてもよいだろうが・・・


ビルに入る前、カイの手をぎゅっと握り締めた仁のが
かすかに震えたように感じたことは、気付かない振りをしてやって。






あっという間だった気がする、この1年を振り返るのはあまりにもたやすい。
そして、いつも視界の隅にいた気がする存在を
記憶に呼び起こすのは、もっとたやすい。




 「なにが『俺ならオマエを守れる』だ。」



実際、今、この場にいないではないか。
研究の続きが残っていると、日本を旅立ってしまったじゃないか。

もちろん、ついていくなんてしないし
行くな、なんて口にもしない。
「気をつけて」とも声をかけずに、黙りこくった背中で送り出した。

お前はそんな俺の背中を見ても、笑っていたのだろう。
それが分かって、わざと振り向いてやらなかった。


お前のせいだ。

お前がいつも、そう、姿を確認しないでも、

その存在が感じられるほど近くにいるからだ。




八つ当たりにも近い罵りで
埋めようとしているのは自分の心の中の寂しさという名の空虚だろうか。





   (こんなところに猫が二匹もいるぞ)



耳をすませたら、そんな声が聞こえそうだ。

再び、目を閉じた闇に
彼の口調と、その笑顔が鮮やかに瞼の裏に浮かび上がる。


そんな偶像でさえ、カイの頬を赤らめさせるのだ。
その事実に悔しくなって、振り払うように目を開けると
いつの間にか傾いた夕日が世界を真っ赤に染め上げていた。




腹の上に猫を乗せたまま寝こけているなんて 
警戒なし、考えなしの行動に舌打ちをする。

薄紫から群青へとかわる空の下。
一人の人、を静かに想う。



 「俺と一緒に来るか。
  仕方がないから・・・奴の帰りを待ってやろう。」




片手で猫を掬い上げると、猫もおとなしくカイの腕に抱かれた。

どうせまた、すぐに旅立ってしまうのだろうが
それでも、そっと指折り数えた帰国の日まで、あとわずか。



仁のマンションが「ペット禁止」だなんて、しらない。

どうせ怒られるのは仁なのだ。



ちょっと驚いたような顔をして、
そして
ちょっと困った顔をして笑うのだろう。
俺がわざわざもう一人のお前と一緒に、帰りを待っていてやるんだから


 「さっさと帰ろう。  ヒトシ。」



思いついたままの名前を呼べば、
目を細めて「にゃぁ」と答える相棒をつれて
カイは帰宅の途についた。









Gレボ終了後、どこかで怪しげ〜な研究の旅を続けている仁兄ちゃんへ。

前回の話の続きじゃないですけれど・・・
レイとカイの未来があぁなら、
きっと仁とカイの先はこんな感じでは?と。
まだ、仁とカイには明るい未来が待っていそうです。 (誤解を招きそうだが、レイカイの未来もきっと明るいぞ!)
そんな祈りを込めました。

仁兄ちゃん、好きです。
少なくとも、Gレボ前半のころよりはずっと。
あのころは、あの目のキラキラに恐れ慄いてましたから;苦笑
あと前髪が蟹の足みたい・・ってイメージしかなかったですから。。。

この心境の変化はひとえに、某御方のおかげなのかもしれません。
そのせいで、私の中での仁は、
シリアスもギャグも攻めも受けもこなす、ミラクルな男へと変貌しております・・・(爆笑!


ここまで、読んでくださってありがとうございました。


2004.5.20

やっぱり、どう考えても題名がしっくりこなかったんで、変えちゃいました。 前のよりは、まだマトモなはず。。。     2004.5.21

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