「月の光浴びて」


「静かにしてろよ。」

もうすっかり日もくれた夜の闇の中、2つの影が揺れる
「カイの制服姿、始めて見た。」
「・・・(うるさい)。」

ここは全寮制のお坊ちゃま学校。
カイが火渡エンタープライズの後継者として、帝王学を学んでいる学校だ。


レイはずっとカイの通うこの学校を見たがっていた。
しかし何せ私立の寄宿制の学校だ。
日曜だからといって一般人が校舎内をふらふらできる状況ではない。
まして、レイは中国人。
いくら同じアジア系の民族だといっても、独特の雰囲気を持っている。
人の多い街中でも目立つ存在なのだ。
(BBAチームはある意味、もっとも目立つチームと言えよう。)
そんなレイが休日の学校に侵入して、目立たないわけがない。


それでも、レイはカイの学校に行きたがった。
カイの迷惑になることはいつも控えているレイが、ずっと行きたがっていたのだ。

―――そこまで行きたいのなら連れて行ってやってもいいかな―――

カイはそう思った。



「ここがカイのクラスか〜♪」

暗い部屋の中に机がぼんやりと浮かび上がる。

世界を旅して、いろいろなものを見てきたレイにとって大きな建物はすでに見慣れたものだったが、
やはり『学校』にはあまり縁がなかったらしい。
たくさんの机が詰まった教室が連なっているのを見て、物珍しそうにしている。
昼間の授業風景でも思い浮かべているのかもしれない。


カイは手早く机の中から1冊のノートを取り出すと
「帰るぞ。」
と声をかけながら、廊下に向かって歩いていく。

「ちょっと、待てよ。 カイの席はどこなんだ?」

―――今、自分の席からノートを取り出した筈なんだが・・・―――
そう思いながらも、答えてやる。

「窓際の・・・後ろから3番目だ。」

レイは  「へ〜」  と言いながらカイの席に行き、中を覗き込んだり、椅子に座ってみたりしている。


「・・・? 何をやっているんだ? 貴様は。」

付き合ってられん、というようにカイは踵をかえした。


レイは慌てたようにカイを引きとめ  「まぁまぁ。」  となだめながら、カイをカイの席に座らせた。

「???」

レイは周りをキョロキョロと見回して、カイの隣の席に座ってみる。

「ん〜、何か違うんだよな〜」

今度は後ろの席に座って、満足そうに笑った。

「いいなぁ。カイと学園生活。」

「・・・ごめんだな。」  カイはぷいっと、そっぽを向く。

レイは黒板を見ながら続ける。

「2人で授業受けて、弁当食べて、部活とか宿題とか・・・恋とか。


後ろの席から、横を向いているカイの髪を引っ張る。
その動きで、こちらを向いたカイに軽く口付ける。

カイも目を閉じ、レイのキスを受けた。

窓から降り注ぐ月明かりの下、2人のシルエットが重なる。



「!!!?」

突如、カイが廊下の方に気を集中した。
レイも訝しげに耳を澄ましてみる。


コツコツコツ  ガラッ ・・・・ピシャッ

コツコツコツ


「ヤバイな、見回りだ。」
カイが呟く。

レイは焦った。
こんな所でカイに迷惑をかけるわけにはいかない。
いくら、カイが火渡エンタープライズの御曹司といっても立場が悪くなることにかわりはない。
夜の教室に侵入し、部外者まで連れ込んでいるのだ。

パニック状態に陥りかけたレイの腕をとったカイは
「こっちだ。」  と引いた。


コツコツコツ  ガラッ ・・・・・・・・・・・ ピシャッ

コツコツコツコツコツコツ



「「・・・。」」


「行ったな・・・。」

「・・・。」


2人は窓際の長いカーテンに包まっていた。
用務員が思ったよりも早くカイの教室にやってきたので、教室前方の教卓の中まで行く
暇がなったのだ。


危機を何とか乗り越え、落ち着いてきたレイは、今の自分が置かれている状況にやっと
気が付いた。

前にいるカイに後ろから覆いかぶさるように、2人ぴったりとくっついて、カーテンに包まっている。

カイの息遣い、心臓の音まで聞こえてきそうだった。


「・・・カイ。」
レイはすぐ目の前にあったカイの首筋にそっと囁いた。

「・・・ぅん(///)。」


カイの腰に手を回して、より体を密着させる。

そのまま、お互いの体温を感じあった。
多少、息苦しくもあったが、こんなシチュエーションも滅多にない。


別に何をするわけでもなく、カーテンの隙間から教室を眺める。
ほの暗い空間に月の光が柔らかく差し込み、紫色の幻想的な教室が出来上がっていく。



「カイ・・・。」
レイがカイの耳に口付けようとした。



その時



  ぐうぅぅぅぅ・・・



間抜けな音が澄み切った空気に振動した。



「「・・・。」」

目を丸くしたカイと、真っ赤になったレイ。

次にでてきた音は、カイのかみ殺したような笑い声だった。


「くっくっくっ・・・。」


笑いながら、カーテンから出る。

「貴様、さすがだな。 夕飯、食べただろ。 もう、腹が減ったのか?」

ツボにはまったらしく、珍しく声を出して笑っている。


レイの包まったカーテンはもごもごと動くだけ。
いつまでたっても出てこない。

何とか笑いを飲み込んだカイはあきれたように(だけど優しく微笑んで)言った。


「ほら、帰るぞ。 ラーメンでも喰っていくか?」


カイの言葉にカーテンの隙間から顔を出したレイは、そこにすでにカイの姿がないのに慌てて、急いで教室を出た。


END


終了ー☆
小説書いた後、正しく言うとパソコンに入れた後って、かなり疲れてます。
それに満足感があったら最高なんだけどね。
カイ様、笑ってます。
NGかな?  と思ったけど 「たまには笑え! 小学生!」 ということで半ば無理やり・・・。
この話、実はかなり前に書いてた話で。・・・授業中に。
「ネタ張」らしきもの(描いた絵とか重ねただけ)を見てたら、出てきたんで、UPしてみました。
パソコンにいれながら 「げっ?! 私、こんな内容にしてたっけ!?」とか驚いてたりして。
題名考えるの、苦手です。 今回もあまり意味ないです。 すでにあきらめモードです。
少しでも楽しんでいただけたなら、幸いです。
ありがとうございました。

2003.3.1

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