また、ここに・・・
真夜中、レイはうなされていた。
夢の中には最愛の人、火渡カイがいた。
ここ数日間、ずっと、カイが夢の中に出てきていた。
大好きなカイと夢の中で会えるのに、それはとても苦しかった。
そう、レイが白虎族に帰ることを決めたその日から。
ある夜のカイは冷ややかな目でレイを見つめていた。
レイが何を言ってもまるで聞こえていないようにただ、レイを見つめていた。
ある夜のカイは、レイの元から去っていった。
背中を向けて遠くへ遠くへと歩いていく。
レイの足はなぜか鉛にように重く、どんなにもがいてもカイを追うことができなかった。
ある夜、レイは氷のように冷たいカイを抱いていた。
どんなに強く抱きしめても、キスをしてもピクリとも動かないカイは、
よくできた氷像のように思われた。
―ずっと心が寒かったー
カイの傍を離れてしまう不安、寂しさからだろうか。
現実のカイはいつもと変わらないのに、夢の中のカイは冷たかった。
そして、目が覚めるとレイは狂おしいほどカイに会いたくなった。
カイに忘れられるのが嫌だった。
「離れ離れになる日が近いのに、こんなことでどうするんだ」 と
自分をののしってみても、カイへの思いは、消えることはない。
レイは帰国の日を1日遅らせて、カイと共に過ごした部屋に訪れることにした。
てっきりカイは寮にいるのだと思ったのだが、部屋の鍵は開いていた。
「ぶっそうだな」と思いながら、中へと入る。
鍵のかけ忘れかと思ったのだが、靴があった。
それは濡れていた。
今日は雨が降っている。
雨に濡れて帰ってきたカイはシャワーを浴びているようだ。
冷たい雨。
薄暗い部屋の中は冷んやりとしていて、『夢』を思い出させる。
カイがシャワーから出てくるのが怖かった。
早く出てきた欲しいと思う反面、
夢が現実の物であったらと思うと、怖かったのだ。
レイは部屋から目をそらし、コーヒーを入れるためにキッチンに向かった。
ずいぶん長い時間がたったような気がした。
「いくらなんでも遅すぎやしないか?」
心配になり、見に行こうかと思い始めたころ
洗面所の方で戸が開く音がした。
ほっとしたレイは、コーヒーをマグカップに注ぎ始めた。
カイがリビングにやってきた気配で振り向いた。
バスローブを羽織ったカイは、シャワーのせいか、ほんのりと頬を上気させて
驚きの表情でレイを見つめていた。
「カイ、いつからそんなに長風呂になったんだ?
あまり長いから、様子を見に行こうかと思ってたんだぜ」
クスクスと笑いながら、カイにマグカップを手渡す。
カイはまだ、驚きの表情を崩さない。
「・・・貴様、・・な・・ぜ?」 「まだ、帰ってなかったのか?」
―早く行って欲しかったか? ここに来たら行けないか?−
不安の声を押し殺して、レイは 「あぁ。」 と肯いた。
「明日の・・・午後の便で行く。」
「・・・・。」
「本当は、今日の予定だったんだが、
もう一度、ゆっくりここに来たかったんだ。」
―もう一度、お前に会いたかったんだー
レイは部屋をゆっくりと見渡しながら、窓際のソファーに腰をかけた。
「・・・勝手にしろ」 カイが小さい声でつぶやいて、レイの隣に腰をかけた。
ー拒絶されていないー レイは安心した。
先ほどまで、あんなに冷ややかで、よそよそしかった部屋にぬくもりが戻ってきた。
暖かさは胸のうちに広がり、今までの思い出を誘う。
2人は部屋の中を見ながら、静かにコーヒーをすすった。
「また、ここに・・・」
レイは無意識のうちにつぶやいていた。
カイは静かにレイを見やる。
カイが何かを言いかけた瞬間、言葉を封じ込めるようにレイが口づけた。
それはとても柔らかい、とろけるような・・・でも少し切ないキスだった。
END・・・?