聖なる夜にくちづけを




木ノ宮宅のクリスマスパーティから戻ってきて
火渡カイはため息をついた。


日本はいつからこんなにクリスマスで盛り上がるようになったのだろうか。



屋敷の自室には山のようなクリスマスプレゼントの数々。
広いカイの部屋の一角に山のように積み上げられていた。

これでもまだマシになったほうなのだ。
何年か前、カイが社交界にデビューした直後はもっとすごかった。
いや、もっと酷かった。

「カイはまだ子供だ」と年齢だけで判断する遠縁のものや
火渡エンタープライズに取り入るために
まずは社長の孫のカイに気に入られようとする会社の重役たちから、
くだらないプレゼントが送りつけられてきた。

お菓子、食べ物類ならまだいい。
どこぞの玩具会社の新製品、今までにない手触りで魔よけにもなる、とか言う
等身大のクマのぬいぐるみが贈られてきたときなんか
さすがのカイも怒りを通り越して閉口した。


うんざりした目でプレゼントの山を見上げ、
それらの存在を頭の中から消すべく踵をかえした。
明日にでも召使たちに持ち帰らせればいい。



そこまで考えて、ふとカイはあたりを見回した。

いつもならすぐ横にいるはずの人物がいないことに改めて思い当たったのだ。



木ノ宮宅で、ワイワイと過ごした夜。
シャンペンだとか木ノ宮祖父の秘蔵の酒だとか、白虎族に伝わる酒だとか。
無礼講さながら道場でドンチャン騒ぎをしていた中にもちろんレイもいた。
酔ってグデングデンになったタカオに絡まれて困っていた。


マックスが今夜は母親も帰国するからと嬉しさを隠しきれない様子で帰っていった。
キョウジュも、もうそろそろ失礼しますと腰を上げたから
カイもその機会に席を立ったのだ。

もともとクリスマスパーティなどどうでもよかった。
ただ、皆に(半ば無理やり)誘われたから出席していた。



それでもやはり、家でただ自分の部屋に見当違いのプレゼントが積み上げられていく様子を眺めているよりは有意義な時間だったのかもしれない。




レイは・・・・あいつのことだから俺と一緒に来るのかと思っていた。




暖房がしっかり効いた暖かい部屋でも
やはり窓によると外からしんしんと寒さが伝わってくる。

曇りかけた窓ガラスに手を添えて、窓を押し開けて外のバルコニーに出た。
月もでていない曇り空を見上げる。
雪が降りそうだ。


ホワイトクリスマスだなんて、なんとロマンチックなんだろう


どこかで聞いたようなセリフを皮肉をこめて呟いてみた。
そしてカイがまだ幼く、そう父親がいたころ
自分のもとにも確かに訪れていたサンタクロースの姿を思い浮かべてみた。

サンタの格好をして白く大きなヒゲまでつけた父親を
サンタクロースだと信じて疑わなかった。
あのころは我ながら無邪気なガキだった、と笑いすらこみ上げる。







「サ・・ン・・・イト ホー・・リ・・ナィ〜ト。」



一瞬耳を疑った。
聞き間違いかもしれない。
街中を歩くとき、嫌というほど耳にするクリスマスソングが聞こえる。
まさかと慌てて、屋根を見上げる。


そこにはコートを着て屋根の上に座るレイがいた。



「お・・前・・・・何をしているんだ?!」


「あーぁ・・・見つかったか。」


カイの叫びにも動じず、悪びれた風もなく笑う。
その様子に内心、苦笑しながらカイが冷たく付け加える。


「いい加減、不法侵入で訴えられるぞ。」


「俺は今夜、サンタクロースなんだ。見なかったことにしてくれるか?」



近くにある手ごろなテーブルから屋根の上に上ろうとするカイに
手を差し伸べながらも、レイは素っ頓狂なことを言った。
サンタクロースという単語にカイは眉をひそめる。


「言ってる意味がよく分からないが・・・。」


屋根に上り、レイの横に座るカイを抱き寄せてレイが
また笑った。
何かを企むような顔と、それをばらしてしまうのが惜しいという顔。

寒さで鼻の頭が赤くして、レイはこんな所で何を企んでいたのだろう。
多少の好奇心と、聞かない方がいいのでは(自分のためでは)ないか、という微妙な思いが
カイの中で入り混じる。



「今夜、カイが寝てからそっと、カイのサンタクロースになろうと思って。」


「俺に・・・何かくれるというのか?」


「いいや。」


くだらないものなら遠慮する、と言わんばかりのカイの口調を
即座にレイが否定した。



「だってサンタクロースって、夜中にそっと子供の部屋に侵入して
添い寝するヤツのことをいうんだろう?」



それは変質者というのではないだろうか



「お前の文化的知識はいつも少しずれている。」



釈然としないようにカイが言う。
それでも肩に回され、抱き寄せる腕を払おうとはしない。



「嘘。ちゃんと知ってる。伊達に世界各国をベイの修行で回っていたわけじゃない。」


白虎の村では、もちろん日本ほどサンタクロースが浸透しているわけではないが、な。



カイの頬に摺り寄せられるレイの頬がヒンヤリと冷えていて
いつからここに居たのだろうと思う。
だいたい木ノ宮宅で、カイが迎えの車に乗り込んだとき
レイはまだタカオに絡まれていたはずだ。



「あれだけいろいろなプレゼントを貰うカイに
 これ以上、物をあげてどうするんだ。」



だから俺は、カイの湯たんぽになるくらいしかできないだろ?

カイの首筋に鼻先を埋めたレイの呟き。



少しのアルコールの残り香の混じる、白い息が重なる。




そんなことはない。


そんな一言を言いかけたカイは、舌の上でしばし転がしてから呑み込んだ。
かわりに冷えたレイの頬に、髪に手を伸ばした。





じゃあ俺は、冷え切った俺のサンタクロースに
暖かいコーヒーでもご馳走しようか。



白いチリのような氷結が空から降りだした。






山のようなプレゼントを端の端に追いやって


今さら、新しいトキメキなどないけれど


こんな聖なる夜


一年に一回くらいならあってもいいかもしれない







急遽、書き上げました。
久々のレイカイラブラブ(?)クリスマス話です。
去年のクリスマス話は・・・カイとレイとマックスでしたね。。。

今年は冬っぽい絵ですべて済ましてしまおうかと思ってたのですが、時間があったので書いてみました。
25日の朝、小1時間ほどかけて書いて、寝かさずにそのままの勢いでupしちゃいます。
なかなか無謀なことをしています。

去年、書いてはいたが時期がずれてupできずに終わったssとかドリームなどが
幾つかありまして、
来年のクリスマスまであと1年もあるんだなぁ(当たり前だ)としみじみ思ったんで
書けたやつは出しちゃいます。
人間、イキオイが大事です;;


皆様のクリスマスが、皆様にとって楽しい良き日でありますように。

Marry Christmas☆

2003.12.25

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