「金魚」


そこの水は思いのほか澄んでいた。

「なっ。」 俺の横で満足そうにレイが微笑む
 


騒然とした都会の街を抜けてたどり着いたそこは、寂れた住宅地の古い防火用の貯水池だった。こんな所にこんな物があったのか−少し驚いた俺はレイに倣ってそのコンクリートで作られた池を覗き込む。

「・・・?」

しばらく見ていたが何の変哲もない「水」があるだけ。その水は思ったよりも澄んでいて池の底がゆらゆらと見える。夏には青々と茂るであろう水草(蓮のようなもの)もやっと春が訪れたこの季節には茶色く変色している。レイの「なっ。」の意味が分からず、俺は口を開こうとした。

「・・・これが何−」 −だと言うんだ? 

言葉は途中で止まった。俺の目に映ったのは1匹の赤い金魚だった。

彼女(彼?)はおずおずと枯れかかった水草の影から姿を現した。俺がレイの方を見るとレイがにこっと笑って俺にそっと耳打ちをする。

「綺麗だろ。初めは人を警戒して隠れちゃうんだけど・・・ほら。」

レイの指差す方向を見ると先ほどまで何もいなかった貯水池の中で十数匹の金魚が泳いでいた。小さいのから大きいのまでいる。大きいのにいたっては10センチ以上あるものもいて、金魚の域を出てしまったように見える。

太陽の光を浴びてキラキラと反射する水のした。澄んだ深い緑の世界が広がる。底はコケで覆われていて何かゴミが沈んでいるのも見えるが、そこは幻想的だった。

「湖に沈んだ街を空から見下ろしているみたいに見えるだろ。一時期すごく栄えて、洪水かなんかに襲われて水の底に沈んだ都市。水に・・・母親の体内に戻ったような。安らぎ・・・?」レイが呟いた。

深い深い世界を舞い泳ぐ赤い金魚。

茶色の葉の隙間からひらりヒラリと垣間見える赤。

色のコントラストの美しさに息を呑む。こんな何気ない風景がこんなにも心を和ませてくれるなんて思わなかった。知らなかった。金魚たちは自分たちを危害を与えない人間だと認識したのか徐々に惜しげもなくその赤さを見せ始めた。2人で並んで貯水池を、コンクリートの水槽を見下ろした。ただ黙って二人で並んでいた。
 
 

帰り道、レイがぽつりポツリと言った。

「偶然・・・あの場所を見つけたんだ。なんか時間がたつのを忘れるって言うのかな。惹かれちゃって(笑)・・・カイがこのごろ仕事で忙しそうだったから、見せてあげたいなって・・・。くだらないことにつき合わせて悪かったな。」

確かに最近の俺は仕事仕事で、BBAチームの方にもあまり顔を出さなくなっていた。やはり疲れていたのだろか。レイの気遣いが温かかった。

「ありがとな。」

俺は小さく呟いて。       ゆっくりゆっくり歩いて家路についた。



少し前に書いて放置していたものです。 
私の中のレイ君は言うことが(思考も)時々くさいです。
これでも一番くさかったセリフを隠してたりします。言ったら意味ないって(笑)。
スペースがあまりなかったので極短にしましたが、初めはこんな感じのセリフもありました。

なんか私の書くものがレイカイなのかカイレイなのか分からないの理由が分かった気がしました。
おそらくレイとカイは精神的に同じぐらいの位置に立っていると私の頭の中で認識されている模様。
どっちかがどっちかに依存するのではなく、お互いに支えあってて欲しいのではないかと。
受とか攻とか関係なくお互い背中合わせで立ってるイメージ・・・かなぁ。
それを言ったらレイカイですらなくなってしまいそうなんだけど、肉体的には(オイ)カイが受。
精神的には同等で。


この貯水池は実際にあります。友達に案内されて・・・柚木、その子と並んで10分くらいずっと見てました。
本当にきれい、だったんですよね。底はコケに覆われてるんだけど水がビックリするほど澄んでて。 
近所の人が放した金魚が生きのびたらしい。
この文章についての一番の心配は、東京に貯水池はあるのか?!といったところです。
田舎者には分かりませんなぁ。
貯水池って言われて、きちんとイメージしてもらえるのかな?

2003.4.29

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