Final Distance
日本にはGW(ゴールデンウィーク)というものがある。
5月の初めにある連休のことで、日本人はその日を利用して
旅行をしたり里帰りをする、そう教えられて
勧められるままに中国に里帰りをした。
カイもどうしても避けられない用事ができたと
しぶしぶ火渡邸に戻って行ったし、
マックスもアメリカの母親の元へと旅立っていたから。
残されたタカオのバトルの相手になっていればいいと思っていたのだが
タカオの爺さんが、温泉に行くとか何とかで
タカオも一緒に行くことになって、
やっぱり白虎族の村に戻ることにしたんだ。
最低限必要な荷物を袋にまとめてしまうと、旅支度は終了だった。
日ごろ、自然と増えてしまったものは
そのまま置いておけばいい。
世界を又に掛けた修行の旅は、日本で歩みをとめている。
でも、それは日本で充分修行ができるからだし、
よいライバルであり、よい仲間たちである彼らがいるから。
そして、最愛の人、火渡カイがいるから。
まだまだ日本にいるつもりだし、
このまま毎日、ワイワイとベイをぶつけ合う日々が続くのだと
何の疑問も見出さず、考えもしなかった。
サクサクと萌え茂る草葉を踏みしめて
白虎族の村に帰った。
村にいたころは、大昔から時を止めたようだと感じていた村も
久しぶりに訪れてみれば、少しずつ変化をしているのが分かる。
「レイ兄ちゃん」と足もとに転がるようにまとわりついていた幼い子どもたちも
レイを見て、頭を下げて挨拶するまでに成長しているし、
畑を耕す大人たちの髪の毛に白髪が混じっていたり
日焼けした肌に刻まれた皺が増えているのも、きっと気のせいではあるまい。
「おぉ、よく帰ったな!レイ。」
懐かしい声に誘われて振り向けば、幼馴染であり相棒であり、ライバルであるライの姿が。
それに続く、マオやキキの声に、思わず顔を崩せば
みんなの笑い声がこだまする。
「長老の具合が・・・あまり芳しくないんだ。」
小声でもたらされた話に頷く。
季節の変わり目。
暖かくなったかと思えば、急に冷え込む朝もある。
そんな気温差が、老体には辛くひびいたのかもしれない。
そんな話に相槌を打ちながら、長老に挨拶をしに小屋に入る。
久々に顔を見せたレイに、長老は喜んでくれた。
白虎族をまとめ上げた力強き腕は、想像していたよりずっと細くなっていて、
レイの動揺を誘った。
長老のお世話をしていた女性の目が、
心なしかレイに縋っているように、不安げに見えた気がした。
大人たちに異国の話をしたり、
子どもたちにベイを教えたり、あっという間に数日が過ぎる。
かつて、白虎族の村にいたときには、こんなに早く時は流れていただろうか。
そんなことを考えながらも、再び日本に向かうべく荷物をまとめた。
荷物といっても、ほとんどが彼らへのお土産が占めていることに
気付くと可笑しくてたまらなかった。
寂しそうにレイを見送る女性、子ども、
また再び、より強くなるために旅立つレイを
白虎族全員が並んで見送ってくれた。
片手を彼らに向けて、山を降りる。
一歩一歩、自分の道を歩いているはずなのに
レイの胸の中で何かがツキンと音を立てた。
数時間飛行機に乗っただけで、中国と日本を行き来できる
その速さを改めて思い知りながら、
レイは日本の地を踏んだ。
土産を詰めた皮袋を背負ったまま、木ノ宮家を目指す。
道場にはすでにお土産を広げたメンバーが
遅いぞ、早く、と言わんばかりにレイを待っていた。
「レイ!なんか久しぶりだなぁ!」
「おかえりなさい、レイ。」
「ハッピーなGWだったネ?」
「・・・。」
騒がしいほどの笑顔と存在感でレイを迎えたタカオたちに
「ただいま。」
声をかけて、その輪に入る。
タカオの土産という温泉饅頭に
マックスがアメリカから持ち帰った怪しげなスナック類。
そこに白虎族手作りの菓子と、
タカオの爺さん用にと用意した秘伝の酒を加えた。
GWにあったことを、口々に報告しあった。
たった数日の間なのに、何をこんなに思うほど
次から次へと話題はつきることはない。
ふと相変わらず沈黙を守りつづけているカイに視線を寄越せば
横のキョウジュから「お仕事が大変だったらしいですよ。」と情報が与えられる。
彼の祖父である火渡宗一郎の指示の元、
新プロジェクトの構築に立ち会わされ、取引先との接待、会議の日々。
外国の要人を迎える際には、テレビにまで映っていたという。
白虎族の村には、テレビはないからなぁ。
顔にペイントを入れることなく、ネクタイを締めて
大人たちと張り合うカイは、それは凛々しかったんだろうと想像して、微笑む。
ぜひとも見たかったと言えば、カイからギロリと睨みが飛び
ちゃんとその放送を録画してあります、というキョウジュの報告に
ため息をはいたカイが顔を覆った。
ひとしきり盛り上がったあとで
休みの間に、腕は落ちてはいないだろうなぁと皆でスタジアムを囲み
バトルもした。
GWの宿題をするのを忘れていた!と突如、頭を抱えたタカオに
キョウジュが真っ青になり、
英語がさっぱりだと泣き喚く声に、マックスが手伝いを申し出る。
いきなり勉強会になった道場。
レイは邪魔をしないようにと、外に出て、カイを誘うと裏山を目指した。
木々が茂り、鳥のさえずりが聞こえる。
振り向くと、黙々とレイの後を付いて歩くカイの姿。
GWでしばらく姿を見ない間に
妙に大人びたというか、大人が背負う重圧のようなものに疲れた顔をしている。
眉間の皺も増えているよう。
「かなり疲れたって顔、してる。
おつかれさま。」
自分の眉間を示しつつ、カイに笑いかけると
カイもまったくだというように、顔をまげて「まぁな。」と呟いた。
「ちょっと会わなかっただけなのに、カイがすごく恋しくてたまらないんだ。」
風に誘われるように揺れる、清青の髪に指を通し、
引き寄せると、珍しくカイがすっぽりとレイの腕の中に納まった。
額に軽く口付けを落とし、
そのまま、唇を求めると
薄く開いた形のよいそれが、自らレイの唇に重なる。
軽く唇を合わせて、そのままそっと、舌でその形をなぞれば
おずおずと誘われるままに舌がのびてきて
ゆっくりと絡ませあった。
かすかに上気した頬をなで、数度上昇した吐息を吐き出す。
「・・・どうしたんだ?カイ。」
久しぶりだからといって、カイがこんなに積極的にキスに応じるなんて。
目を丸くしたレイに
それはこっちのセリフだ、とカイが言い放った。
「お前が。
少し、いつもより・・・元気がない。
ただ疲れているだけなら、いいんだが。」
選ばれた言葉たちを繋ぎ合わせて
レイの真意を図ろうと、瞳の赤が光を増した。
・・・ばれてたか。
己の中に渦巻く、際限ない、不安と・・・・
「なぁ、俺たち、いつまで一緒にいられるんだろうな?」
軽い口調で吐き出されたレイの言葉を、
カイはいつもの戯れかと思った。
ずっと一緒にいたい、カイと離れない。
そんな過去に何度も繰り返された、レイからの愛の言葉。
さぁな、と軽く呟いて、上気する頬を僅かに逸らした、日々の言葉。
レイの見ると、至極真面目な雰囲気を纏い、
まるで裁判の宣告を待つかのように、泣きそうな顔をしていた。
「・・・レイ。」
「もし離れても、ベイブレードをしている限り
俺たちの心は繋がっている、とでも言うか?」
カイはそんな奇麗ごとは言わない。
そんなことは分かっている。 だけど
この数日の間、脳髄の裏の方で誰かが囁くように
頭の中に蔓延していた霧の原因。
この霧が晴れるとき、何か重要な、ナニかの結論が出てしまう。
そう恐れて、きつく目を閉じた暗闇。
白虎族の村に背を向けて、村民たちの別れの声が遠く小さく、聞こえなくなった瞬間
突如、ぽっかりとレイの頭の中に浮かび上がった答え。
「俺は・・・白虎族の次期族長として、
いや、そうでなくても、白虎族繁栄のために、子孫を残さなければいけないんだ。」
それはカイ、お前だって同じだろう?
火渡財閥の嫡子として、社長の座が待っているし
跡取りも残さなければいけないだろう
「なぁ、俺たちは、いつまで、一緒にいられるんだ。」
苦しくて、心臓がつぶれそうになった。
そんな現実から目をそらせなかった自分に呪詛を吐きかけてやりたい。
そんな想いとは裏腹に、さらりさらりと言葉は続く。
「きっと同じ土に眠ることすら、ない。」
一瞬一瞬が積み重なって、今という『時』ができている、と聞いたことがある。
一瞬一瞬の未来は、一瞬一瞬の過去へと変わる。
そして、人は生きていく。
「ただ、言えることは。」
いつの日か、やってくるであろう『わかれ』の時に向かい
その日を怯えるように、
生きたくは、ない、ということ。
だが、気付いてしまった『サダメ』としか言いようのない圧力が
確実にこれらの身を、それぞれの地へと押し上げる。
空気中に溶け込むように、途中で切れたレイのセリフ。
わずかにこわばった顔で聞いていたカイが
空気をゆがめたような、かすれた声で呟いた。
「・・・泣いている・・・の・・か・・?」
「・・カイ、こそ。」
「?」
レイに指摘されるのが早いか
頬を流れる水の感触を感じるのが早いか。
「これは・・なんだ?」
その水滴をすくいあげたカイの手が小刻みに震えている。
「だから。涙、だろう。」
流れる涙をぬぐうこともしないで、静かに肩を震わせていたレイが
カイに言う。
カイはまだそれが何か信じられないといった様子で
濡れた指先とレイを代わる代わる見比べた。
すでに涙でぐしゃぐしゃになったレイと
驚き見開かれた目からポロポロと涙をこぼれ落とすカイ。
5月の穏やかな風が、彼らを包むように通り抜け
若草色に染め上げた。
それぞれが背負った宿命こそがFinal Distanceだと。
どんなに想いがつながっていても
どんなに深く身体を繋ぎ合わせても。
決して超えられない一線がある、と。
子孫を残すこと、家業を継ぐこと、
それらがどの程度大切なものであるのか。
そんなものに縛られるだなんて、と鼻先で笑い飛ばせる日が来るのかもしれない。
ただ、当たり前にそうなる将来という期待を背負って生きてきた身には
今はまだ、笑い飛ばせない真実。
風にのってタカオたちが騒ぐ声がかすかに聞こえる。
さっさと宿題を終わらせたのか、
見えぬ終わりを待たずに放り投げたのか。
レイとカイを探しているように聞こえる。
帰るべき場所はソコに用意されている。
還るべき場所はココに用意されている。
いつまで一緒にいられるかなんて
「そんなこと知るか。」
ただ、今はまだ、どうかこのまま―――――
この話を考えたとき、(3月の終わりごろですが)
これを表に出すときは、私のベイブレードの同人活動、最後の時なのだろう、 そう思いました。(大袈裟な話;笑。
この話は許されるのでしょうか?
レイカイファンの方だけでなく、カイレイファンの方の中でも。 刺されそうだなぁと思いました。
きっと自分の中で、許せない部分があるんだと思います(自分で書いておきながら;)。
こんな偏狭サイトでの、こんな管理人の一つのshort story。馬鹿らしい、と投げ捨ててくださって、結構です。
将来、どうなる?どうしてる?
火渡は社長に。金李は白虎族の長に。 この答えは、よく見かけますし、私もそう思っています。
で、2人はいつまでも一緒v 私もそう願っていますし、そう妄想もしております。
でも、ちょっとだけ、疑問の目を向けていい? そんな感じで書かれた文章です。
中途半端なことを許す2人には見えなかったんで。
間違えても、全てを捨てて、駆け落ちをしてしまえる2人だとは思えなかったんで。
勝手に問題提起をして、解答までたどり着かずに、終了しています。
解答までは、私なんぞではたどり着けません;;
さてと。
これが私の中での、レイカイ話の一つの結論であります。 現段階の、です。
暫くしたら、「どうして私、こんな話考えてたんだろう?」と思っているかも分かりません。
ただ、これが、今の私の考えなので、 そのままサイトにUPすることにしました。
まだまだベイは好きですし、まだ書きたいネタもあるし。言いたいこともあるから
もう少し、まだ少し、できればドーンと! サイトを続けて生きたいと思っています。
よろしければ、お付き合いいただけると幸いです。
2004.5.12