Autumn tints (コイノイロ)



―あの紅(アカ)がもう一度見たいんだ―

 

日本には四季がある。

日本人には当たり前のそれは、

当たり前の日常を生きる我々の空気を

日ごと、月ごと、鮮やかに照らしてくれる。

 

冷夏と呼ばれる夏が終わりを告げ、ようやく涼しくなった。

初めは気付かぬ小さな変化も

朝夕の冷え込みが激しくなり、

山の木々の華やかな変化を前に

本格的な秋の到来を感ずる。

 

ベイの練習が一息ついて、

各自、休憩に入った。

少し離れて座るカイをとりあえず、放っておいて

他のメンバーでたわいない話を弾ませる。

 

「皆さんで一度、紅葉狩りにも行ってみますか?」

キョウジュの一言から始まった日本の四季の話は

日本文化の話へと変化し、

横になってウトウトとまどろむレイの頭上から

タカオたちの楽しげな和菓子談議が聞こえてきていた。

 

ふっと目が覚めて、道場の板張りの床から顔を上げた。

 

いつの間にか眠っていたのか・・

 

道場を見渡すとカイが一人で壁にもたれて座っていた。

 

やけに静かだな? 

 

寝起きで鈍った頭を回転させると、

タカオとマックス、キョウジュで和菓子を買いに行ったことを思い出す。

 

そういえばどんなのがいいか、聞かれたな・・・

なんて答えたんだっけ?

 

ぼんやり考えながら、肌寒い風が通り抜ける道場の窓を閉めるために立ちあがる。

 

カイは眠っているようだ。

ピクリとも動かない。

 

このまま眠ってしまったら風邪をひくかもしれない、

カイを起こした方がいいのだろうか?

 

レイは少し俯いたカイの頭を見る。

顔は影になっていて、表情までは読み取れない。

 

―あの紅色がもう一度見たいんだ、今すぐに―

 

無意識にレイは手を伸ばしていた。

カイを起こさないように、そっとドランザーを手に取る。

そして重みを確かめるように、裏返したりして観察する。

 

最後に朱雀の宿るビットチップに引き寄せられた。

堂々として神々しさを失わない不死鳥は

カイのパートナーとして相応しいようにみえる。

 

朱雀もカイを宿主として認め、

カイも朱雀を信頼しているんだろうな・・・

 

そんなことを考えながら、ビットチップを人差し指で触ってみる。

ちょっとこすってみる。

 

「・・・ちょっと出て来いよ・・」

当たり前だが、何の反応もないドランザー。

ちょっと爪でつついてみる。

 
 

「・・何をしているんだ?」

 
いつの間にか、カイの瞳が開いていた。

 

「いや・・・紅色が・・・・」

 

カイを見たレイの動きが、言葉が止まった。

 
「・・・?」

 
そのままカイににじり寄る。

いや、にじり寄るという表現は適当ではない。

レイは猫のように軽やかに、音を立てずカイに忍び寄る。

 

そっとカイの頬に手を添えた。

レイの滑らかな動きに目を奪われていたカイの身体が

少し強張った。

 

 
・・キス しようとしているのだろうか?

 

近づいてくるレイの瞳に、カイの心が震えた。

一気に高まった鼓動が

頬に添えられたレイの手から伝わりそうで

 

目を閉じようかと思ったが、レイの金色の

瞳にすいよせられて

閉じることが出来なかった。

 

しかし、いつまでたってもレイの口付けは降りてこない。

 

「?」

 

レイは片手をカイの頬に、

もう片手でカイの顔の横にドランザーをかかげて

 

カイの瞳の色と

ビットチップの朱雀の色を見比べていた。

 
 

「・・・そっか。

俺が見たかったのは朱雀のじゃなくて・・・カイの色だったんだ。」
 

一人納得したように呟くと、満足げに笑った。

 
「ドランザー、貸してくれてありがとな!」

 
さらっとカイから身体を放す。
 

「・・あれ?カイの頬も・・赤い・・?」

「っ貴様!!!」

 

レイの手からドランザーを奪い取ると

目にも留まらぬ速さでシューターにセットした。

 

「そんなに見たいのなら、くれてやる!

 殺れ!ドランザー!!!」

 

すさまじい勢いでシュートされたドランザーから

火の鳥、朱雀が舞い上がった。

 

「え?」

 

ぎゃ―――――――――――――――――・・・

 

綺麗と感じると同時に

朱雀の炎に包まれて、こげるレイ。

 

ちょうどその時、タカオたちが買い物から戻ってきた。

 

 

「わぁ!レイが燃えてるネ!」 

「おい、カイ。道場まで燃やすなよ。」 

「すごい回転力です!

皆さんもアレくらいの集中力で練習してくださいね。

さぁ、コレを食べたら練習再開ですよ!」 

口々に言いながら買ってきた、紅葉のように色とりどりな日本の伝統菓子を

がさがさと袋から取り出し、湯のみに抹茶を注ぐ。

 

レイをこがし終えたドランザーをキャッチして、

カイも暖かい抹茶の恩恵にあずかろうと仲間の元へと向かう。

 

こげたレイを残して。

 

「・・何で怒ってるんだろ?(グスン)」

 

レイの呟きは無常にも誰の耳にも届かなかった。

 

――カイの凶行がただの照れ隠しであったことは、誰も知らない。

 

合掌

 

 

日本には四季がある。

日本人には当たり前のその秋の紅葉は、

当たり前の日常を生きる我々に

自然界の偉大さを教えてくれる。

 

そしてレイのそばには

麗しい紅色の聖獣を纏わんばかりの

気高い、紅い人がいる。





久々のレイカイ(?)文。
ヘタレ・・・というより天然なレイ君。
こんなのレイ君ぢゃないわ!というお怒りを受けそうなんですが
自サイトでは今更なんで(おぉ、開き直ったよ;;)
でもやっぱりレイカイ好きだvv
大好きだーーーーーーーー!

3日前に書いたときは、夏の終わりの設定でした。
で、タカオたちはアイスを買いに出かけていた・・と
タカオのセリフも「このくそ暑ぃのに朱雀なんか出すなよ!」でしたよ;笑
でも、時期はずれなのと、
紅葉の季節なので、UPする直前に秋一色になりました。

こんなレイカイ、いかがでしょうか?
bbsに感想でもいただけると嬉しいです。

2003.10.26

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